@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000754, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Dec}, note = {video/mp4, application/pdf, 新型コロナウイルスの流行が続いています。呼吸器系の感染症を防ぐ上で、マスクと共に重視されているのが手洗いです。では手洗いの大切さは、いつ頃から認識されたのでしょうか。 1.ナイチンゲールと手洗い  手洗いの大切さを考える原点として、ナイチンゲール「看護の覚え書Notes on nursing,1859」を引用します。 「ただの冷水だけで手を洗ったばあいと、石鹸と冷水で洗ったばあいと、石鹸と温湯で洗ったばあいとの、それぞれ使ったあとの水の汚れぐあいを比較してみよう。最初の水はほとんど汚れを落としてはいず、つぎの水はすこし落としており、最後の湯はずっと多量の汚れを落としていることに気づくであろう。ここでさらに、熱湯を注いだコップの上に手を1、2分かざして、そのあと指でちょっと擦ってみよう。・・・」(p161)  さてナイチンゲールの以上の記述を学生の皆さんはどのように受け止めるでしょうか。 2.ゼンメルワイスと手洗い  手洗いの効果が世界で始めて実験的に示されたのは1847年です。当時ハンガリーの産婦人科医ゼンメルワイスは子どもを産んだばかりの母親が、産褥(さんじょく)熱を発症して死亡する原因が「医師が手を洗わないこと」にあることを付きとめ、手の消毒の実践や関連の成果発表を1847年から始めました。しかし当時の医学会はゼンメルワイスの説を認めず、ゼンメルワイスは1865年、47歳で失意のうちに亡くなりました(ナショナルジオグラフィック、日本版、2020)。ゼンメルワイスの説が認められ、医師がこまめに手を洗うようになったのは、1870年代になってからだと言われます。ナイチンゲールが「看護の覚え書」を刊行した1859年当時は、医師ですら手を洗うことの意味を認めていませんでした。こうした時代に、水やお湯や石鹸を使って実験的に手の洗い方を試しているナイチンゲールの先見性には驚かされます。 3.日本における手洗い  では日本では人々は感染症の予防をどう捉えていたのでしょうか。またいつ頃から手を洗うことが習慣化したのでしょうか。朝日新聞の聞蔵Ⅱで検索した結果、特に目にとまった二つの記事を中心に紹介します。 大正時代の手洗い  「1915年8月13日大正4年 消化器系の伝染病流行;疫痢・赤痢・腸チフス;家庭で注意せよ。昨今市内郡部を通じて赤痢疫痢及び腸チフス等消化器系の伝染病しきりに流行するについて、栗本衛生部長は語る。・・・これら伝染病を予防するには、いかにすべきかというに、第一諸種の病菌の根絶を期するためには、身体と家屋の両方に注意せねばならぬ。まず身体については、抵抗力を強くする必要がある。されば身体については、これを清潔にすることが肝要である。元来消化器系の伝染病は口より病原菌が侵入するものなれば、手を洗う習慣は子供などには特に必要である。次に恐るべきは寝冷えであるが、寝冷えによりて多く感冒にかかり、腸カタルを起こす場合が多い。しかしてこの腸を痛めたるとき細菌の来襲を受ければ、おうおう取返しのつかぬ事が出来(しゅったい)する。・・玄関や座敷を清潔にすると同様にゆるがせにしてはならぬ次は、この種伝染病の病原菌運搬者たる蠅(ハエ)の駆除が必要である。これには便所下水等に時々少量ずつの石油を散布すれば大なる効果がある。しかして、これら病原菌に対して、日光は実に偉大なる殺菌力を有するものであるから、畳家具など寝具の日光乾燥を行うことは極めて肝要でこのほか換気法もまた伝染病予防上注意すべきことである。・・・」 昭和初期の手洗い  1940年7月5日 昭和15年 伝染病の予防は婦人の手から;明日から防疫強調運動。・・・講演会とともに各警察署では各区役所と緊密な連絡を取り、6、7両日にかけて一般家庭婦人、飲食店関係業者の衛生講演会を催し、また郡下170余校15万の女学生、800余校80万の小学生に「手をきれいに洗いましょう」と清書させ、おのおの家庭に持ち帰らせて各家庭のお台所衛生の注意を喚起させるが、最終第3日目の7日は町会と共同で蠅(はえ)取デーを施行、悪疫媒介の「蠅」を徹底的に退治し、多数捕獲した者には褒美をやろうと懸賞付きである・・・。 手洗いをどう考えるか  以上の引用から、19世紀後半には医療関係者が手洗いの大切さを認識し、20世紀の前半には、日本でも手洗い運動が進み始めたことが分かります。  しかし日常的な手洗いの重要性が人々に広く知られるようになったのは、もっと後のことだという指摘もあります。たとえば米国で手洗いに関するガイドラインが制定され、手洗いが公式に健康管理の一環とされるようになったのは1980年代と言われます。  現在、新型コロナウイルスの感染が進む状況下で「何より大切なのは手を洗うこと!」という認識が一般化していますが、こうなるまでに多くの年月を要しました。しかし手洗いの習慣は本当に定着したのでしょうか。流行が終息したら、また状況は変わるのでしょうか。学生の皆さんは、自身の手洗い行動がこれまでどのように変化して来たのかを振返ってみてください。 References  朝日新聞 (1915)消化器系の伝染病流行. 東京/朝刊,5頁6段,大正4年8月13日.       (1940)伝染病の予防は婦人の手から.東京/朝刊,3頁1段,昭和15年7月5日.  ナショナル ジオグラフィック日本版(2020)手洗いの大切さ、発見したが報われなかった不遇の天才医師. 2020年3月10日.  https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/031000162/  Nightingale Florence著/湯槇ら訳(1860)看護覚え書Notes on nursing./改訳第7版(2011),東京:現代社,1‐299。}, title = {Covid-19禍のもとで手洗いの意味を考える ; 20世紀前半までの事情を中心に}, year = {2020}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }