@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000698, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Apr}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。前回は地域診断の概要をお話ししました。 今回は地域診断に関連して、仕事の仕方につき、問題提起します。 仕事の構造とは? 保健師は臨機応変に自分の仕事を行い、また多くの人々に働きかけて共同の仕事を推進することが大切です。仕事は簡単なものから複雑なものまで多様です。「地域診断に基づいて地域全体をより健康な方向に動かす仕事」は保健師の仕事の中でも、最も複雑な仕事といえます。ではこのような仕事とは、どのような構造をもっているのでしょうか。   わが国では、KJ法を開発された文化人類学者、故川喜田二郎(かわきたじろう)先生(1920-2009)が半世紀前に、仕事の構造を考察しておられますので、以下、引用します。 『個人であれチームであれ、その仕事の成果は、仕事のやり方によって著しく左右される。その仕事のやり方には、専門分野とか仕事の種類に関係のない、大事な原則がいくつかある。そしてそれらの中でも最も大切な原則は、一仕事的に仕事をすることであり、単なる作業やその分担という考え方ですべきではないということである。そのようにすれば、その個人やチームは、仕事の成果をあげるだけでなく、また一仕事の達成を通じて、著しく成長するのである。このような経験とそれに基づく以上のような考え方は、まだKJ法が完成した姿を取らない時期から抱いていたのである。その結果は、自然に次のような疑問へと発展していった。つまり、それほどまでに人間やチームにとって一仕事が重要なのなら、いったい一仕事の構造とはどんなものであろう。モデル的に単純化しててよいから、それを摑みたいと思った。その結果私のとった方法は、次のようなものだった。まず、当時(1960年頃だったろうか。記憶がはっきりしない)私が一、二年以内に実際行った一仕事を、数種類書き出してみたのである。その中には、チームを率いてヒマラヤの学術探検に行った大仕事もあれば、つい二、三日前に自分の研究室で行った小さな一仕事もあった。次いでその各々について、どんな作業工程を必要としたか(かなり大まかにではあるが)を、裁断した小さな紙切れに、一枚一枚作業として書き出してみた。そして、これらの沢山の紙切れを合併し、あれこれ並べ変えつつ、全体として筋の通った姿に配置してみた。これが第3図であり、後に「一仕事の一二段階」と呼んだものである。(引用1:pp.26-27.)』 『以上のような一仕事の一二段階というものを見いだして、私は驚いてしまった。まず、それは、単純にこのようにモデル化しただけでも、なんと複雑なものであろう。さらに、実施だけが一仕事のように思う人が少なくないのに対し、実施とは、実は12段階中の1段階にすぎないということである。実施だけを重く見たかのような今日の社会の職場態勢は、猛反省をしなければならないのかもしれない。さらに痛感したこと。それは、実施だけでなく計画をも大切だとする多くの人びとも、計画以前に判断のための多くのステップがあるということを、軽視ないし無視しているのではないか、ということである。(31頁)』  以上の引用箇所は、1960年当時、わが国において行われた仕事の順序性についての本格的な考察であると共に、現在においても、仕事のあり方を考7+える上で、出発点となる重要な考察だとは理解しています。当時、わが国は高度経済成長期の只中で、生産現場や経済界では、科学的な経営管理の導入が盛んでしたが、この動きに対し、川喜田先生は以下のように述べておられます。 『問題解決の3つの大きなプロセスとして、私は〔判断→決断→執行〕という流れをあげたのである。これを平たくいえば、物事をやってのけるには、その主題をめぐり、(1)まず判り、(2)次に肚を決め、(3)最後に手を下す、ということである。なんと簡単な、判りきったことかと思う人も多かろう。ところが今日、このように簡単に見えることが、決して本当には理解されていないように見える。例えば現代の日本人は、ずいぶんせっかちになってしまっている。そこで、何か問題がひとつ持ちあがると、事態を判ろうとする前に、「解決策は?」と、すぐ目を血走らせ、手を下そうとしてしまう。つまり、「判断」のプロセスを飛ばして「決断」や「執行」に移ってしまう傾向がある。  もっと冷静なはずのビジネスの世界ですら、大きな思いちがいがある。戦後アメリカから入ってきた科学的経営管理の考え方の基本に問題解決のプロセスをPlan, Do, Seeつまり「まず企画し、次いで実施し、最後に吟味検証せよ」というのがある。この口調の良い言葉が、日本の企業界で流行してきた。しかし、はたしてそれでよいのだろうか。これを私の主張した〔判断→決断→執行〕と比べると〔プラン→ドゥ→シー〕は、すべて〔執行〕ないし〔決断→執行〕のプロセスだけを指すものとり、判断のプロセスは脱落してしまう。  こういえば〔プラン→ドゥ→シー〕の礼賛者は弁明するだろう。ここでいうプランの中には、判断のプロセスも含まれているのだ、と。しかし、そうすると、「プラン」の中に、判断の諸段階から決断や計画の諸段階まで、何もかも全部つっこまれてしまうことになり、不自然な一括の仕方になってしまう。』  さてここまでは川喜田二郎先生の著作を引用して、仕事の構造を考察しました。 上記の考察にも出てくる〔プラン→ドゥ→シー〕の考え方はその後改変され、PDCAサイクル〔プラン→ドゥ→チェック→アクション〕として、21世紀の現在、経済界だけでなくわが国のあらゆる場面・階層に普及しました。私たちの大学が年間の様々な計画を立てる際もこの考え方が基本です。また保健師の仕事についても、地域診断をはじめ、多くの活動の基本的な考え方になっています。 地域診断における仕事の流れ・段階 1目的・目標の設定 量的また質的なデータから地域の健康課題が明らかになったら、その課題の解決のイメージを言語化します。これが目的の設定です。  目的 (purpose, aim) とは、成し遂げようとすることがら、行為の目指すところを意味します。  最終的に何を目指して進むかが目的として明らかになったら、次は目標の設定です。  目標 (objective, goal, target) とは、目的を達成するために目指すべき行動や道しるべです。目的が一つだとしても、そこに一気に至るわけにはいかず、途中に複数の目標が必要となります。 2 計画策定 目的や目標が設定されたら、そこに向かうための活動計画、実施計画を立てます。  計画を立てるにあっては、保健師のみではなく、その地域に存在する多機関、多職種が参加し、それぞれの立場・視点から、何ができるのか、何をどのような順番に行うのか、達成状況をどう評価するかなどを、多面的・具体的に検討することが大切です。 3 PDCAサイクルを回す 目的や目標ができ、計画が具体化し始めたら、PDCAサイクルの発想により、全体の活動を一連の動きのあるものと捉え、柔軟に先に進めていくことが大切です。  PDCAサイクルとは、組織的に展開される活動を「Plan計画、Do実行、Check評価、Action改善」の4段階で順番に行い、その4段階を繰り返すことにより、活動を継続的に改善していく考え方です。第二次世界大戦後、品質管理の考え方を構築したウォルター・シューハート、エドワーズ・デミングらが提唱した考え方です。シューハート・サイクル (Shewhart Cycle) またはデミング・ホイール (Deming Wheel) とも呼ばれます。 終わりに さて今日は地域診断を含む地域での仕事の流れについてお話しました。  地域診断は、また地域診断を出発点として、目標を立て、地域を変えていく仕事は、とても大きな仕事です。その一方、私たちの毎日の生活は、子育て、家事、通勤、ボランティア活動など、様々な小さな仕事が組み合わされて成立しています。  川喜田二郎先生は、どのような仕事でも、共通の構造を持ちうることを指摘し、まず判断すること、次に肚(腹)を決めること、そして手を下すことのそれぞれに、重要さを認めました。  PDCAサイクルの発想は、公衆衛生の中に、また保健師の仕事の中に広く取り入れられていますが、こうした品質管理の考え方で保健師の仕事が全て見通せるわけではありません。  皆さんは日々の計画を立てるときに、また地域診断の計画を立てるときに、体や感覚をどのように用いて考え、判断しているでしょうか。前回お話しした暗黙知の捉え方も大切です。  PDCAサイクルの流れを理解した上で、その流れの中にただ組み込まれるのではく、皆さんらしい暗黙知の捉え方、一仕事の12段階の捉え方を大切に、自分らしい仕事の進め方を工夫してください。 引用文献 1)川喜多二郎. KJ法_渾沌をして語らしめる. 東京、中央公論社 1986}, title = {地域診断と仕事・活動の段階}, year = {2017}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }