@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000695, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {May}, note = {video/mp4, application/pdf, みなさん、こんにちは。今回は根拠に基づく看護、また根拠に基づく看護実践についてお話します。 根拠に基づく看護EBN/根拠に基づく実践EBPとは 根拠に基づく看護EBN evidence-based nursingは、看護研究や臨床疫学の研究成果を根拠として行う科学的な看護です。しかし看護は患者さんと医療者との関係性の上に成り立つ具体的な人間的な行為でもあります。看護師が保健統計学や疫学を駆使して研究し、看護の根拠を数値で示すことは、EBNの一部にしかなりません。EBNで最も大切なのは、根拠や数値を求める前提として、常に探究心を持って行われる日々の看護実践であり、EBP evidence-based practice (根拠に基づく実践)と呼ばれます。 なぜEBP(根拠に基づく実践)か なぜEBP(根拠に基づく実践)が大切でしょうか。既に以下のような点が指摘されています。 ・ケアの質が上がり患者さんの利益になる. ・医療ケアの費用を下げる、費用の地域的格差を下げる. ・医療者のバーンアウトや高い転職率を下げる.   現在はインターネットの時代、疾病に苦しむ患者さんがネットでベストな治療法を探すことは普通に行われ、また医療に直接かかわらない人々も、医療や看護や介護のより良い方法に関心を持っています。ましてや医療者は、自らが関わる医療の実践に関連して、常に根拠を求めることが大切です。   その一方で、なかなかEBPが進まない現実も繰り返し指摘されています。たとえばBalasとBoren による2000年の報告では、研究で得られたエビデンスが出版されてから、臨床応用されるまでに17年かかったとされています。他方、西暦2020年までに全ての臨床判断の90%を根拠に基づいたものにする、との目標が2007年にアメリカで示されました。 根拠に基づく実践(EBP)のためのステップ MelnykとFineout-Overholtが編集した教科書に従って、EBP根拠に基づく実践に向けたステップをお話しします。(Melnyk, Fineout-Overholt, ed. Evidence-Based Practice in Nursing & Healthcare: A Guide to Best Practice. 2nd Ed, Lippincott Williams & Wilkins 2012) ステップ0;探究心の醸成 EBPに向かう際に出発点となる大切なことは「よりよい実践を求め、問いかける心; 探究心 spirit of inquiry」です。また探究心を育むカルチャーculture(文化、文化的背景)の存在も欠かせません。そのポイントは以下のとおりです。   ①問いかける心;看護職としての現在の実践に常に問いかけを持つこと ②EBPに立脚した発想:看護の基準/使命/哲学にEBPを統合する(EBPへの能力を含む) ③EBPの指導者層形成:他の人々に向けた技術や知識の利用可能性を提供し援助する。 ④EBP強化のためのツールや基盤整備:コンピュータの整備から学習会の開催まで。 ⑤EBPへの管理部門からの援助:リーダーがEBPの重要なスキルをモデル化できる高いレベルの援助 ⑥EBPを頻繁に使うことの認識 ステップ1、看護実践における臨床的な質問/問いかけ さて、探究心を形に表す際に大切なのが「問いかけ」です。EBPに向かうには、どのように問いかけたらよいでしょうか?  例えば「不安感を持つ思春期の若者」への介入・看護実践に際して、「根拠」を求める場合、どのように問いかけるべきでしょうか。以下の質問は適切でしょうか。  質問例1「不安感を持つ思春期の若者に対し、どんな介入が最良か?」  問いかけは、状況に対応した根拠を探す上で、とても大切です。では上記の問いかけはどうでしょうか。この問いかけから、情報を検索し、根拠にたどり着けるか、と考えると、この問いかけは、あいまい過ぎることが分かります。このようなあいまいな質問に基づいてデータベースを検索しても、大量のあいまいな情報が得られるだけで、適切な根拠にはたどりつけません。  ではどんな質問がいいのでしょうか。疫学や保健統計の発想を組み込んだ質問のポイントとして、PICOTが提案されています。重要な問いかけのポイント5点の頭文字を並べたのがPICOTです。 P - patient population 患者集団 I - issue of interest or intervention 関心のある介入 C - comparison group 比較する集団 O - outcome 結果アウトカム T - time frame 時間。  このPICOTを具体的に考えると良い質問になります。  Pは患者集団、Patient Populationです。現在の例だと「不安感を持つ思春期の若者」です。   Iはissue of interest or intervention 関心のある介入です。不安感に対する介入一般ではなく、あなたの医療機関で実際に行われている介入は何でしょうか。たとえば「認知行動療法」でしょうか。  Cはcomparison group、比較する集団を考えます。たとえば同様の若者に対し、認知行動療法のような専門的な介入ではなく、もっと普通の働きかけ、たとえば「ヨガのクラスの受講」はどうでしょうか。  Oはoutcomeアウトカム、結果です。介入の結果としては、たとえば「不安感の変化」が考えられます。  Tはtime frame時間的枠組みです。何らかの介入が不安感に与える影響を観察するには、どのくらいの時間の長さが必要でしょうか。たとえば6か月後の変化。  さて、最初の質問と、PICOTを考慮した質問とを対比すると以下のようになります。  質問例1-1「不安感を持つ思春期の若者に対し、どんな介入が最良か?」  質問例1-2「不安感を持つ思春期の若者に対し、認知行動療法とヨガを比較すると、6か月後の不安感はどちらでより軽減するか?」  例1:(P)不安感を持つ思春期の若者, (I)認知行動療法, (C)ヨガのクラス, (O)不安感の変化, (T)6週間後の変化。  質問例2-1「痛みを持つ膝関節形成術後の患者に対し、どんな介入が最良か?」  質問例2-2「痛みを持つ膝関節形成後の患者に対し、神経ブロックと鎮痛剤投与を比較すると、術後24時間時点での痛みは、どちらでより軽減するか?」  例2:(P)痛みを持つ膝関節形成術後の患者, (I)神経ブロック, (C)鎮痛剤の投与, (O)痛みの軽減の程度, (T)手術後24時間の時点。 ステップ2、適切なエビデンス(根拠情報)の検索と収集 看護実践を行う目前の患者さんに対して、前項のようにして、PICOTを考慮した質問ができるようになると、そのPICOTを構成する言葉(キーワード)をもとに、データベースを検索し、目前の状況の改善に資するようなエビデンスを、そのエビデンスが記されている文献を探すことが可能になります。  特にエビデンスとして信頼できる、エビデンスレベルが高いRCTを中心とした研究成果の統一見解的なまとめとして、システマティック・レビューやメタアナリシスがあることは、前回の授業でお話ししました。  ではシステマティック・レビューやメタアナリシスの結果などの信頼できるエビデンスはどこに集積されているのでしょうか。以下、主要なエビデンスの集積を示します。  ・コクラン共同計画 http://www.cochranelibrary.com/ ・James M. Anderson Center for Health Systems Excellence https://www.cincinnatichildrens.org/service/j/anderson-center/evidence-based-care/recommendations/topic ・Minds 医療情報サービス(マインズ) EBM診療ガイドラインの公開(日本医療機能評価機構、厚生労働科学研究費補助金)  http://minds.jcqhc.or.jp/n/ ・NGC - National Guideline Clearinghouse EBM診療ガイドラインを公開(アメリカの国家事業) https://www.guideline.gov/ https://www.cincinnatichildrens.org/service/j/anderson-center/evidence-based-care/recommendations/topic ステップ3: 批判的なエビデンスの評価 PICOTの質問を元に、データベースを検索し、結果としてエビデンス(根拠)を記した研究論文がいくつも得られたら、それらを批判的に評価します。以下の3点は重要です。 1)その研究は確かか?有効か?妥当か? この質問は、保健統計学的にはvalidityと関連します。  その結果は真実に可能な限り迫っているか。その研究を行った研究者は最良の研究方法、研究対象の無作為化(RCT)を行っているか。 2)その研究での介入の結果はどうか?信頼できるか?再現できるか? この質問は、保健統計学的には信頼性reliability・再現性と関連します。要するに介入は効果的だといえるか? 介入効果の大きさはどの程度か? 別な場所で同様の介入を行ったとき、同様の効果が期待できるか? 3)その結果はここの患者さんにも適用できるか? これはapplicability適用可能性を問う質問です。論文に示された対象者は、私がケアをしている患者さんと似ているか? 論文に示された介入による利益は、介入に伴う危険よりも大きいか? その介入はこの場でも実現可能か? 患者さんは、その介入を望むか? ステップ4: エビデンスを現行の介入に統合し、最良の臨床判断に至る 上記のステップで文献に示されたエビデンスを評価した結果、エビデンスの有効性・信頼性・適用可能性に良好な評価が得られたら、実際に行っている看護の中に文献のエビデンスを統合し、エビデンスに基づいた新たな看護実践の方法を示す。 ステップ5:新たな実践によるアウトカムの評価 上記のエビデンスに基づいて新たな看護実践を行い、その結果アウトカムを評価する。 ステップ6:アウトカムを広める ステップ5までで、意味のある新たな看護実践が出来ることが分かったら、その実践を自分で行うだけでなく、発表し、他の人々がそこから学べるようにすることが重要です。 文献: Bernadette Mazurek Melnyk, Ellen Fineout-Overholt. Evidence-Based Practice in Nursing & Healthcare: A Guide to Best Practice. 2nd Edition, Lippincott Williams & Wilkins (2012/7/23)}, title = {根拠に基づく看護実践}, year = {2017}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }