@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000660, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Aug}, note = {video/mp4, application/pdf, 今回のマイクロレクチャー(オンライン講座)のテーマは「研究する際の主観と客観の意識化」「研究の哲学と倫理の意識化」です。  先ほど大学院生である皆さんの自己紹介をお聴きしました。生命科学の研究が高度化・先端化する中、皆さんは研究の技術的な側面に特に関心のあることが分かりました。技術的な側面は大切です。しかしそこに哲学的・倫理的な視点が欠けると、理化学研究所での先日のSTAP細胞事件のようなことが起きる心配もあります。  哲学と倫理は何れも古代ギリシャ時代から存在し、歴史とともに発展してきました。哲学と倫理は、わが国でも教育から社会的な規範、科学技術にまで深く広い影響を与え、私たちはそれとは特に意識しない場合も、その影響を受けています。今日はまず始めに哲学から、次いで倫理からの問題提起を行います。 哲学的視点 1番目のアナログスケール  主観 <--------------> 客観  このスケールは意識の状態を表現するためのものです。左端は「主観」右端は「客観」となっています。  例えばこの夏ミカンを見たとき、皆さんの意識状態はスケール上のどこに位置するでしょうか。夏ミカンの大きさや重さの正確な計測や、表面の細かい観察を考えるなら、意識状態は「客観」にあります。一方、「酸っぱそうだ」「色が鮮やかだ」と感じたり「色が良くない部分は切り取りたい」などと思うなら、意識状態は「主観」にあります。  では普段の生活では、意識はどこに位置するでしょうか。  皆さんが研究室で実験台に向かい、生命現象を観察するときは、意識は右端に近い状態だと考えられます。一方、研究以外の時間、友人や家族と一緒だったり、お休みでリラックスしているとき、意識は左端に寄り、主観が強い状態になっているでしょう。一日の中でも、意識は揺れ動いています。  皆さんはこのような自分の状態を、普段、自分で意識し制御しているでしょうか。特に意識せず自由奔放に行動している場合は、実験台に向かい、本来は右端にあるはずの意識状態が、突然、左端の方に、揺れ動くこともあり得ます。同じ実験をしていても、結果の「客観的な厳密さ」よりも「主観的な美しさ」に心を奪われ「実験結果を現実よりも美しく見せたい!」との思いが現れ、結果を修正することも起こるかもしれません。  このような意識のブレを無くすることは難しいでしょう。しかし「今、自分の意識状態はどこにあるだろうか」と内省する習慣をつけることで、より安定した意識を保つことが出来ます。 2番目のアナログスケール  「客観」は研究を行う上で必須です。しかし「主観」が不要なわけではありません。20世紀、「客観」を重視する研究が飛躍的に発展する一方で、「客観」だけでは研究が行き詰る場合もあり、「主観」を重視する立場も発展しました。  以下、二番目のアナログスケールでは、右端を「客観重視(の立場)」左端を「主観重視(の立場)」としました。 主観重視 <--------------> 客観重視  客観重視とは「研究は客観的で厳密だ。厳密で正しい研究な結果は再現できる。人の心や精神は主観的で、信用できない」などとする立場です。  他方、主観重視とは「研究では客観と共に、主観が大切だ。絶対に正しく厳密な研究は幻想だ。研究を考える上で、心や精神など主観的な要素は重要で信頼できる」などとする立場です。しかし「主観重視の立場」といっても、客観を排除するわけではありません。「主観は、客観と同等かそれ以上に大切だ」というのが左端です。  では、この二番目のスケールを用い、皆さんが研究を行う際の意識状態をスケール上の一点に○印をつけて示してください。○を付け終わったら3分間、時間をとります。どの位置に○をつけたか、なぜそう考えるかにつき、周囲と意見交換をしてください。皆さんの対話の間に、私は皆さんの間を回り、様子を見せていただきます。 (3分間の交流)  さて、私も皆さんの様子に接して、皆さんの考えが大体理解できました。  14人中、長さ10cmのスケールの右端(左から10cm)に○が2人、右端から約2cm以内(左から8~10cm)に○が5人、真ん中から右寄り(左から5~8cm)に○が4人、そして真ん中より左寄り(左から2~5cm)に○が3人、という結果でした。  スケールの右端に○の2人は、患者さんとの接点を特に持たずに、生命現象の解明に関する基礎医学的な研究をしていました。一方、左から8~10cmまたは5~8cmに○の9人は、研究の過程で、検体を得た患者さんの様子を思い浮かべることがあるそうで、臨床場面との関連が深い研究をしていました。また左寄りに○の3人は看護師、歯科衛生士などの出身で、調査を中心とした研究を志していました。  さて同じ大学院に所属しながら、皆さんの研究の考え方が一様では無く、10cmのアナログスケール上で3から10cmまで認識に多様性があることは、皆さんにとっても、意外な発見だったようですね。自分の意識を振り返り、さらに他の人々と交流することで、私たちは複数の視点を通して自分の状態を把握することができます。  以上のスケールから明らかになった主観と客観の位置づけは、哲学的にはどのような意味を持っているでしょうか。 客観を重視する哲学  客観を重視する哲学的・科学的立場としては「論理実証主義」「還元主義」及び「行動主義」があります。最初の二つは実験科学の基礎となる哲学的な考え方です。  「論理実証主義」は「客観的で再現可能な感覚体験から論理的に科学知識が導かれる」を強調します。  「還元主義」は「客観的に、複雑な全体は部分へと分解でき、部分から全体を見通す知識が得られる」が要点です。  他方、「行動主義」は行動科学や社会心理学の基礎となる哲学的な考え方で「客観的な行動の観察から人と社会の行動が解明される、人の主観は信用できない」が要点です。  これらの考え方は特に20世紀半ばまでの科学や社会の発展に大きく寄与しました。 主観を重視する哲学  主観を重視する哲学的・科学的立場としては「構成主義(教育)」「社会構成主義」があります。構成主義として共通するのは「人々が日々の生活の中で、他の人々や世界と触れあい、コミュニケーションを取るなかで、知識が形成・獲得される」という考え方です。  当初「構成主義(教育)」は「人の発達過程での知識や概念の内発的な形成に関する理論」として生まれました。  また「社会構成主義」は「社会集団(科学者も含む)での現実認識や知識形成に関する社会的相互作用の理論」として発展しました。  20世紀の中期、「論理実証主義や還元主義の行き過ぎによる自然科学の負の側面」、「行動主義の行き過ぎによる教育や社会管理の負の側面」が明らかになるにつれ、それらの行き過ぎを批判し、科学をより人間的なものに導く哲学として、これら「構成主義」の存在意義が高まっています。 倫理的視点  さて最近は、研究に関連して、哲学よりも倫理が問われることが多くなりました。人間に技術を適用する際の問題が増え、紛争や裁判も増える中で、課題解決の考え方として、倫理への注目度が増したと考えられます。  文部科学省は「児童生徒が,生命を大切にする心や他人を思いやる心,善悪の判断などの規範意識等の道徳性を身に付けることは,とても重要だ」として、小学校と中学校では道徳教育を推進しています。  また高等学校では「生徒は,一般に,人生をどう生きたらよいか,自己とはどのような存在なのか,社会にどのようにかかわっていけばよいかなど,人間や社会について問いをもつ時期にある」として「倫理」を公民科の1科目に位置付けています。  よって皆さんは小・中学のときは道徳として、高校では公民として、「倫理」を学んでいるはずですが、現在の意識はどうでしょうか。 3番目のスケール  実際に皆さんがどのくらい倫理的な考え方に親しんでいるか、意識化するために、3番目のスケールを用意しました。 難しい 難しくない 面白くない <--------------> 退屈. 面白い 特に学びたくない 積極的に学びたい  先ほどと同様に、皆さんの意識を、スケール上の一点に○印をつけて示してください。また○を付け終わったら、どこに○をつけたか、なぜそう考えるかにつき、周囲と意見交換をしてください。皆さんの対話の間に、私は皆さんの間を回り、様子を見せていただきます。 (3分間の交流)  皆さんの様子で興味深かったのは、14人中12人と大多数の皆さんがアナログスケール10cmのほぼ中心(丁度5cm辺り)に○を付けていたことです。理由を聴くと「倫理は特に難しくは無いが、易しくも無い」「退屈ではないが、さほど面白くもない」との答えが返って来ました。一方、2人だけは中心よりも右側(左端から7~8cmあたり)に○を付けていました。理由を聴くと、この二人は何れも海外(英語圏)の大学で学んだことがあり、そのときに倫理や哲学を面白いと感じた、とのことでした。 今後に向けて  さて、哲学や倫理は、その世界を極めようとすると、大変に奥が深いですが、日々の生活の中でその面白さ/興味深さに触れ、考え続けることが大切です。  特に倫理は、これからの研究者にとって、必須です。  医学研究科の大学院でまず親しんでおくべきは「ヒポクラテスの誓い」「ナイチンゲール誓詞」「ジュネーブ宣言」「ヘルシンキ宣言」「リスボン宣言」などでしょうか。  短時間で概要を復習したい人は、以下のURLをご参照ください。 http://social-med.blogspot.jp/2014/05/ph10.html また哲学に関心のある人は、以下のURLにある「行動科学」の解説をご覧ください。 http://taiwa-act.blogspot.jp/2014/02/wb14.html さて今回は、皆さんに倫理や哲学の既存の知識を詰め込むのではなく、皆さんが互いに交流し、自他を振り返ることから、気づくことが大切と考えて、マイクロレクチャーを組み立てました。要するに、このレクチャー自体を、論理実証主義や還元主義の立場からではなく、構成主義の立場から行ったわけです。  これを機会に、この大学院授業に留まらずに、日ごろの研究活動の中でもぜひ交流を続けていただきたく思います。実験を行う際の哲学から、実験ノートの取り方に至るまで、交流の中で学ぶ事は多くあると考えられます。 (守山正樹)}, title = {大学院生・研究者における哲学/倫理、主観/客観の意識化}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }