@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000651, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Aug}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さん、こんにちは。今回のテーマは予防/健康管理とは何か、その意味・考え方・基本をお話しします。 最初の授業で「人々、時間、生活」の意識化をお話しました。今回は過程(プロセス)について三つの意識化から始めます。 1.過程の意識化 1)「疾病の自然史」の意識化  臨床医は目前の患者さんと疾病自体に注目します。一方、公衆衛生医が注目するのは「疾病の自然史」です。疾病には過程があります。「発症する前」はどうだったでしょうか。また「疾病の後」は? どう回復するのでしょうか? 「疾病の全過程:自然史」を意識することで、予防と健康管理への途が見えて来ます。 2)要因・原因の意識化  過程に注目する公衆衛生医にとって、次に大切なのが「疾病の要因・原因」の意識化です。18世紀、感染症の病原体が発見されるまで、疾病の要因・原因に対する理解は、ミアズマ説など前科学的な段階にありました。19世紀、病原体の発見にともない、新たな理解が生まれます。19世紀末から20世紀中期の公衆衛生学者、Winslowは、単要因ではなく、多要因が関わって疾病が発症することを示しました。例えば結核は、単要因「結核菌」だけでなく、多要因「環境・宿主の栄養状態・免疫等々」が関わって発症します。この考えが「多要因説」です。20世紀後半、生活習慣病の増加につれ「多要因中、生活と結びつき、危険度の高いのはどれか」「どの要因を予防したら疾病のリスクが減るか」などの思考が一般化しました。「危険因子、リスク要因、Risk Factor」とも言います。 3)予防の意識化  臨床医は目前の患者さんの疾病につき、診断と治療に注意を集中します。一方、公衆衛生医は、疾病や障害が起こらないように、予防を考えます。疾病の自然史でいうと、どの時点でどの予防(一/二/三次)が有効でしょうか。  一次予防:疾病の自然史の早期、疾病が起こる前に予防するのが「一次予防」。①ヘルスプロモーションや ②健康教育により 人々が危険因子に曝露する機会を減らすことが大切です。またある感染症を③特異的予防できるよう、予防接種をすることは、感染症対策の中心になっています。  二次予防:疾病が起こり始める過程に着目し、早期発見/早期治療するのが「二次予防」。感染症(結核など)や生活習慣病(循環器疾患やがんなど)の集団検診は二次予防です。メタボリックシンドロームに対する特定健康診査も含まれます。  三次予防:疾病の自然史の後半に注目し「①すでに発症した疾病による活動制限を最小にする」「②患者を社会に復帰させるリハビリテーションを早期に始める」ことが「三次予防」です。 2.健康管理の過程  「疾病の自然史・リスク要因・予防」などの考え方を総合し、「健康を保ち、病気を予防し、有意義な生活を確保する活動」が「健康管理」です。健康管理を二方向から考えます:A集団検診から始まる健康管理、そしてB人々自身が普段の生活の中で行う自己管理としての健康管理。 A 集団検診からはじまる健康管理  集団検診をきっかけに行う健康管理は、乳幼児から高齢者まで、健康管理活動の基本です。同義語:「集団検診」はがんや結核など疾病の早期発見を「健康診断(健康診査、健診)」は健康度チェックをめざします。  集団検診では、疾病を早期発見できる一定の検査項目につき、検査を行い、異常値を示す人を選び出します。検査で異常値を示す人を選び出す(screen)ことをスクリーニング(ふるい分け)といいます。厳しい基準の検診は、細かい目の“ふるい”に例えられます。ふるいの目が細かいと、わずかに異常があっても“ふるい”を通り抜けられず、残ってしまいます。一方ゆるい基準の検診は、粗い目の“ふるい”に例えられます。目が粗いと、わずかな異常は“ふるい”を通り抜けてしまい、見逃されます。  スクリーニング(ふるい分け)の際の検査項目値、“ふるい”の「粗さ/細かさ」を「ふるい分け水準、スクリーニング・レベル、カットオフ値」などと言います。試験もスクリーニングの一種です。カットオフ値が100点満点の90点なら、殆どの学生は不合格になるでしょう。一方カットオフ値が30点なら全員が合格し、成績不良者が見逃されます。  実際の疾病の有無と、スクリーニングでの異常の有無(陽性/陰性)を組み合わせることで、スクリーニング検査の結果は4つ(a,b,c,d)に分類されます。  a 真陽性:疾病あり & スクリーニング陽性(+)  b 偽陽性:疾病なし & スクリーニング陽性(+)  c 偽陰性:疾病あり & スクリーニング陰性(-)  d 真陰性:疾病なし & スクリーニング陰性(-)  以上4つの値からスクリーニングの性能・有効性を表わす以下の指標を計算できます。 ・感度 = 疾病あり中,スクリーニング陽性の者の率 = a/a+c ・特異度 = 疾病なし中,スクリーニング陰性の者の率 = d/b+d ・偽陰性率 = 1- 感度 = c/a+c ・偽陽性率 = 1- 特異度 = b/b+d ・検査後確率=陽性反応適中度=スクリーニング陽性中,疾病ありの者の率 = a/a+b ・尤度比 = 感度/(1- 特異度)= (a/(a+c))/(b/(b+d)) *尤度比とは「疾病ありの人が疾病なしの人に比べ、検査でどれくらい陽性と判定されやすいか」尤度比が高いほどその検査は実用的だと言えます。 ・理想的な検査とトレードオフ  感度と特異度が共に1.0ならば理想的なスクリーニングです。しかしそんなスクリーニングは存在しません。また同一の検査法を用いる場合、カットオフ値を変化させると、感度と特異度はトレードオフの関係(一方が上がると他方が下がる)を示します。これを図示したのがROC曲線です。ROC曲線を描く場合、グラフの横軸には(1-特異度)または偽陽性率を、縦軸には感度をとります。カットオフ値を変化させると、このような曲線が描けます。  検査法を変えると別なROC曲線が描けます。曲線を比較することで、異なる検査法の性能を比較できます。左上に曲線が位置する検査の方が、感度も特異度も優れていると判断します。  集団検診による健康管理では、検診の結果選ばれたスクリーニング陽性者に対し、再検査、精密検査、健康相談、経過観察、要治療などの措置がなされます。並行して、活動制限、休業、生活指導、入院などの生活上の規制措置がなされます。 B 自己管理としての健康管理 1)Lifestyleの発見  検診の有無に関わらず、人々はそれぞれに毎日の生活を生きています。生活は健康にどう影響するでしょうか。日本では貝原益軒の養生訓に表れているように、江戸時代から“暮らしと健康”に関心が持たれていました。しかし乳幼児期から青年期・壮年期に至る生活習慣・Lifestyleの積み重ねが、その後の健康や疾病罹患に影響を与えることが、明確に認識されたのは、20世紀になってからです。LifeとStyleから成る言葉Lifestyleを最初に用いたのはオーストラリアの心理学者Adlerです。「子供時代の早期に確立され、それ以後はその個人の反応と行動を制御する基本的な特徴」と理解されます。  1965年、米国のアラメダ郡でカリフォルニア大学のBreslowによる疫学調査が開始され、6928人の住民の生活と健康が20年後まで追跡されました。その結果、7つのLifestyle(Alameda 7)が健康に影響することが実証されました:①喫煙をしない、②過度の飲酒をしない、③毎日朝食、④適正な睡眠、⑤定期的に激しい運動、⑥適正体重を保つ、⑦不必要な間食をしない。さらに関連の調査で、対人関係網・Social networkがしっかりしている人は、疾病にかかりにくいことが証明されました。なおわが国での同様の追跡研究としては、福岡県久山町で1961年から行われている久山町研究があります。。 2)目前の人に働きかける健康教育  目前の人のLifestyleや行動を健康にしようとする教育的な働きかけが、健康教育です。出発点は20世紀前半に表れたKAPモデル、人々に「知識knowledgeを普及・教育し、態度attitudeを変え、習慣practice(または行動behavior)を変容させること」という考え方です。初期は「そんな生活をしていると早死にしますよ」など脅かす形の健康教育が主流でした。現在では、コミュニケーションを重視し、楽しいゲーム的な要素や、参加的な要素も取り入れられています。 3)人々や社会に働きかけるヘルスプロモーション  第二次世界大戦後、WHOは「Health for all:世界中の全ての人々に健康」を目標に掲げました。この目標に向かう国際戦略としてまず現れたプライマリ・ヘルス・ケア1978年は「健康教育/食糧/飲料水/予防接種/簡単な治療/必須医薬品」など「健康を支える保健医療の基盤整備」を重視しました。その後1986年「人や社会への水平的な働きかけ」として現れたのがヘルスプロモーションです。カナダ・オタワでのWHO国際会議で採択された「ヘルスプロモーションのオタワ憲章」により世界に広まりました。オタワ憲章の基本戦略「Advocate、Enable、Mediate」には「唱導、能力の付与、調停」などの日本語が当てられています。活動内容には①健康的公共政策の確立、②支援的環境の創造、③コミュニティ活動の強化、④個人スキルの開発、⑤保健医療サービスの見直し、が挙げられました。 4)健康日本21、日本版ヘルスプロモーション   日本版ヘルスプロモーションとしては、国民健康づくり運動「健康日本21」があります。西暦2000年に第1次計画が開始され、10年ごとの改訂を目指しました。基本的方向性「壮年期死亡の減少、健康寿命の延伸、生活の質向上」のもと、Lifestyleが深く関係する9分野(①栄養食生活、②身体活動運動、③休養・こころの健康づくり、④たばこ、⑤アルコール、⑥歯の健康、⑦糖尿病、⑧循環器病、⑨がん)で具体的な数値目標を掲げました。1次計画の評価に基づいて2013年より展開され始めた「健康日本、第2次計画」では、基本的方向性に「健康格差の縮小」が加えられました。 キーワード 予防、健康管理、疾病の自然史、病原体発見、ミアズマ説、Winslow、単要因、多要因説、危険因子、リスク要因、Risk Factor 一次予防、ヘルスプロモーション、曝露、特異的予防、予防接種、二次予防、早期発見、早期治療、生活習慣病、集団検診、メタボリックシンドローム、特定健康診査、三次予防、リハビリテーション 健康管理、健康診断、健康度チェック、スクリーニング、ふるい分け、ふるい分け水準、スクリーニング・レベル、カットオフ値、真陽性、偽陽性、偽陰性、 真陰性、スクリーニングの性能・有効性、感度、特異度、偽陰性率、偽陽性率、検査後確率、陽性反応適中度、尤度比 理想的な検査、トレードオフ、ROC曲線、スクリーニング陽性者、規制措置 自己管理、Lifestyle、貝原益軒、養生訓、Adler、Breslow、疫学調査、Alameda 7、対人関係網、Social network、久山町研究、健康教育、KAPモデル、WHO、Health for all、プライマリ・ヘルス・ケア、保健医療基盤整備、水平的な働きかけ、ヘルスプロモーション、オタワ憲章、Advocate唱導、能力の付与Enable、調停Mediate、健康的公共政策、健康日本21、国民健康づくり運動、、数値目標、健康格差 (守山正樹)}, title = {予防と健康管理}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }