@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000649, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Aug}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さん、こんにちは。今回は地域保健とは何か、その意味・基本・概要をお話しします。  地域保健とは「共同社会の組織的努力を通して、地域住民が健康で長生きできるようにする活動」です。  地域をどう意識するか、まず私の事例を紹介します。  私は福岡市の油山のふもと、福岡市城南区南片江に住み、町内会に加入しています。町内会では回覧板での地域行事の案内や、町内の清掃などの活動を行います。ここは歩いて10分の南片江公民館、地域での集まりや行事で活用されます。城南区にはこのような公民館が12箇所あります。城南区の中枢は城南区役所です。ではこれから区役所に行ってみましょう。  ここが城南区役所です。出生届や死亡届、住民票や戸籍の届出などで訪れる重要な場所です。城南区も含め福岡市は全7区で構成されます。では最後に福岡市の中枢、市役所に行ってみましょう。  ここが福岡市役所、九州で最大の都市、福岡市の中枢です。  以上、町内から始め、公民館、区役所、市役所とたどり、行政的に地域を意識化しましたが、他にも地域の捉え方があります。  ここは私の勤務する福岡大学です。学生さんが大学に通学する地理的な範囲が「通学圏」です。ここは福岡大学病院です。患者さんが病院に通院する地理的な範囲が「通院圏・診療圏」です。  ここは福岡市の中心部、大名にある歯科医院です。医院や診療所も、それぞれに通院圏・診療圏を持っています。 ・地域を知る さて地域保健活動を行うためには、地域と人々について知ることが大切です。人口・経済・産業などは、市役所が公開している統計データが活用できます。  より具体的に地域を知りたい場合は「実際に地域に行き、歩き回り、人々の話を聞いたりする活動」が必要になります。先ほどの歯科医院の3階には予防歯科の分野で活動するNPO法人の事務所があります。このNPOは「口腔保健を中心とした健康づくり活動」「ホームレス者の歯科相談」などの活動を行っています。対象者の口の中を見せてもらい、また話を聞くことから、統計では分からない生活や健康の課題が見えてきます。アプローチに際してエスノグラフィーメソッドや質的研究の考え方が重要です。 ・地域保健の歴史  第二次世界大戦前、わが国では富国強兵の政策が中心でした。戦後、地域の実情に応じた地域保健活動への関心が高まり、1947年には保健所法が改正されました。国民皆保険制度の実現は1961年です。1960年代、結核などの感染症対策や母子保健から、成人病対策や精神保健、環境問題へと、地域保健の重点が移りました。高齢化の急速な進展は1970年代からです。1978年「国民健康づくり対策」が登場し、市町村保健センターの整備が始まり、国際的にはWHOがプライマリヘルスケアを提唱しました。  1982年には老人保健法ができ、40歳以上の予防的保健事業や老人の医療事業が始まりました。1986年にはWHOがヘルスプロモーションを提唱し、2000年には健康日本21が始まりました。2002年に健康増進法ができ、健康増進計画の策定が都道府県に義務付けられました。高齢化がさらに進む中、2000年から介護保険が始まりました。2006年には医療制度改革により、老人保健法が高齢者医療法(高齢者の医療の確保に関する法律)に変わりました。2008年からはメタボリックシンドローム対策として特定健康診査/特定保健指導が始まりました。2012年には「地域保健対策の推進に関する基本指針」が改訂され、ソーシャル・キャピタルの活用などが強調されています。 ・地域保健活動の範囲  地域には色々な人が住んでおり、地域保健活動の必要な範囲は明確にする必要があります。労働者は産業保健の対象として事業所で、児童・生徒・学生は学校保健の対象として学校で、健康管理がなされ、地域保健活動の対象には含まれません。地域保健活動はそれ以外の人々「乳幼児・自営業者・主婦・高齢者」を対象とします。様々な年代の人々に注目する「母子保健・成人保健・老人保健」、人々の抱える課題に注目する「精神保健・難病保健、環境保健」は地域保健の「一部分、各論」と位置付けられます。 ・地域保健活動の機関、保健所と市町村保健センター  地域保健法によると、地域保健活動の中心的な役割を担う専門的な機関が「保健所」、健診や健康相談など住民の身近なサービスの場が「市町村保健センター」です。  全国の500カ所近い保健所のほぼ四分の三は、都道府県が設置しました。その他に、保健所政令市と特別区は保健所を設置できます。  今来ているのは、福岡県の中枢、福岡県庁です。ここに福岡県の公衆衛生の中枢(公衆衛生部局)があります。では福岡県が設置する保健所の一つ、福岡県筑紫保健所(筑紫保健福祉環境事務所)に行ってみましょう。今筑紫保健所に向かっています。着きました。2014年現在、福岡県が設置した保健所はここも含め全部で9カ所です。  地域保健法によると、二次医療圏(二次保健医療圏)ごとに保健所を1カ所を設置することになっています。筑紫保健所は二次医療圏「筑紫」に対応し、4市1町(筑紫野・春日・大野城・太宰府の各市および那珂川町)の業務を行います。保健所や二次医療圏は地域の保健医療福祉ニーズに対応する必要があり、状況に応じて組織や業務の統廃合がなされます。筑紫保健所の場合も統合によって名前が変わり、現在は「筑紫保健福祉環境事務所」に含まれています。  今度は政令市が設置する保健所についてお話します。2014年現在、福岡県内には4つの保健所政令市があります。今いるのは福岡市役所、政令市である福岡市の中枢です。では福岡市が設置する保健所の一つ、城南保健所に行ってみましょう。ここが城南保健所です。福岡市では全7区に保健所と保健センターとがあります。両者は福祉も含めて機能的に統合され、保健福祉センターとなっています。そのため城南保健所は城南区保健福祉センターとも呼ばれます。 ・保健所の事業  保健所では、どのような事業が行われているでしょうか。地域保健法第6条には以下の項目があります。①地域保健思想、②統計、③栄養改善や食品衛生、④環境衛生、⑤医療と薬事、⑥保健師、⑦公共医療事業、⑧母子や老人、⑨歯科、⑩精神、⑪難病、⑫伝染病などの予防、⑬衛生上の試験や査、⑭健康保持増進。以上の専門的な事業を行うため、保健所には医師を所長として保健師・獣医師・薬剤師・歯科医師・検査技師などの専門職員がいます。 ・行政活動としての地域保健活動、分類  ここでは地域保健活動を、国・県・市町村など公(おおやけ)が行う活動、行政活動と捉え、規制行政的活動と給付行政的活動に分けて考えます。「規制行政的活動」とは「人々の活動をチェックし規制し許可を出す活動」です。安全な食品や水や医薬品が供給されるように、有害な物質が環境中に出されないように・・と考えると、地域社会で規制は重要です。一方「給付行政的活動」とは「地域住民に対してサービスを提供する活動」です。さまざまな検診、健康教育・指導などが含まれ、行政だけでなくNPOなども関わります。  別の観点からの分類として、住民を直接対象とした「対人保健活動」と環境・飲食物・動物などを対象とした「対物保健活動」があります。 ・地域保健活動と行政のあり方、理論的背景  地域保健活動は自由主義経済体制のもとで行われます。しかし自由過ぎても混乱の心配があり、公の責任による行政の介入に際し、以下3点は重要です。  ①生存権保障: 「生存する権利」を保障するという考え方で、日本国憲法に規定されています。  ②経済効果と財: 経済的な視点も重要です。予防接種を受けると、その人だけでなく、疾病のまんえんが防げることで、他の人も利益を得ます。これが「外部経済効果」です。また、公害を出した企業が、公害対策にお金を使わずに生産を続けると、周辺住民が不利益を得ます。これが「外部不経済効果」です。さらに、お金を払わなくても誰でもが利用でき、利益を得られる健康教育のような「公共財」、政府がお金を払っても行う価値のある住民検診のような「メリット財」などの捉え方も大切です。  ③社会防衛: 精神障害や感染症発症などにより、本人や周囲の人々に不利益が生じうる場合に、人権に配慮した上で、やむをえず何らかの強制的な方法をとる「社会防衛」の考え方があります。 ・地域保健活動の進め方  さて地域保健活動は多くの事柄を含みますが、簡単に言えば「乳幼児・自営業者・主婦・高齢者などの人々が、健康で安心して暮らすことを支える活動」と言えます。では結局何が大切なのでしょうか。  地域保健活動でまず求められるのは、地域住民のデマンドに留まらずに、住民が本当に必要とするニーズを知ることです。住民に聴き取りを行ったり、健康指標を統計的に分析して、実証的にニーズを把握することが大切です。  ニーズを把握した上で「地域の人たちを健康にする計画」「健康の問題を解決する計画」を「Plan策定し、Do実行し、Check評価し、Act次の改善計画を立てる」ことが重要です。これがPDCA サイクルです。PDCAの考え方は、第二次世界大戦後、品質管理の考え方を構築したシューハートやデミングらによって提唱されました。肥満対策教室や禁煙教室を計画する場合にも、PDCAサイクルの考え方が使われます。 さて最後に質問です。 地域保健活動は保健所・保健センター・市役所が、行政活動として行えば、それで済むのでしょうか。教科書的には一応正解ですが、現実には異なります。母子でも高齢者でも、地域では日々さまざまな課題が発生し、行政の対応には限界があります。地域の人々の力が必要とされます。  地域でPDCAサイクルを動かし、課題解決を目指す場合、大切なのは以下5点です。①育児!介護!などと課題を明確に意識し、その課題をかかえた集団(特定集団)に着目する、②一人ひとりの健康問題は地域社会に共通した問題かもしれないと意識する、③対象者も活動に参加できるようにする、④地域社会の行動規範を意識し、行動変容を考え、健康教育を工夫する、⑤地域社会を保健活動のパートナーとする、⑥計画策定を大切に地域保健を前に進める。  学生の皆さんが将来、医療者になったとき、所属する医療福祉介護施設の患者さんや入所者の皆さんに関わることは当然です。それに加え、PDCAサイクルなどの考え方を活用して、地域社会の課題解決に関われば、それは必ず地域保健活動にとってプラスになります。いや、学生である現在でもボランティア活動などを通して、地域保健活動の一端に関わることが出来るでしょう。自分に何ができるかぜひ考え試みてください。 キーワード 地域保健、共同社会の組織的努力、公民館、区役所、出生届・死亡届、住民票・戸籍、市役所、通学圏、通院圏・診療圏、地域保健活動、人口・経済・産業、統計データ、生活や健康の課題、エスノグラフィーメソッド、質的研究 地域保健の歴史、富国強兵、地域保健活動、保健所法、国民皆保険制度、感染症対策・母子保健、成人病対策、精神保健、環境問題、地域保健の重点、高齢化の進展、国民健康づくり対策、市町村保健センターの整備、WHO・プライマリヘルスケア 老人保健法、予防的保健事業、医療事業、WHO・ヘルスプロモーション、健康日本21、健康増進法、健康増進計画の策定、高齢化、介護保険、医療制度改革、高齢者医療法、メタボリックシンドローム対策、特定健康診査/特定保健指導、地域保健対策の推進に関する基本指針、ソーシャル・キャピタル 地域保健活動の範囲、乳幼児・自営業者・主婦・高齢者、母子保健・成人保健・老人保健、精神保健・難病保健、環境保健、保健所、市町村保健センター、地域保健法、保健所政令市、県が設置する保健所、二次医療圏(二次保健医療圏) 保健所の事業、地域保健法第6条、行政活動、地域保健活動、規制行政的活動、給付行政的活動、対人保健活動、対物保健活動、生存権保障、経済効果と財、外部経済効果、外部不経済効果、公共財メリット財、社会防衛 住民のデマンド、住民のニーズ、実証的ニーズ把握、Plan・Do・Check・Act、PDCA サイクル、品質管理、シューハート・デミング (守山正樹)}, title = {地域保健}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }