@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000647, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {May}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちわ。今回は医学モデル/社会モデルとは何か、また対応する二つの分類(疾病分類/生活機能分類)、バリアフリー/ユニバーサルデザインにつき、その意味や基本をお話します。  近い将来、医療者になることを目指す学生の皆さんは、関連の分野で高度な知識や技術を身につけようとしています。医学モデルに代表されるような専門知識や技術を身につけて、個々の患者さんの疾病を正確に診断し、疾病を治療することは、素晴らしいことです。  しかし高度な知識や技術で、すべての問題が解決するわけではありません。21世紀の現在でさえ、最先端の医学を適用しても、治らない疾病があります。  そのような時、医学モデルの考え方だけでなく、社会モデルの考え方を身に付けていると、異なる角度から、問題に接近することができます。 二つのモデルから考える 1) 医学モデル  医学モデルとは「疾病や障碍を、個々の患者に生じた個別的な状態(疾病や障碍)と捉え、その状態の個別的な治療を志向した、医学からの専門的な接近を、最重視する考え方」です。医学モデルは、医師などの専門家が、専門知識や技術を駆使して疾病を治療することに、最大の価値を置きます。医学部など医療系の学部で学ぶ学生のみなさんが受けている教育の殆ども、この考え方に基づいて行われます。医学モデルは医師など医療の専門家の増加や最先端医学の進歩に伴って、さらに発展しつつあります。  しかし、疾病や障碍に関する課題が医学モデルだけで解決するわけではありません。医学モデルでは解決できない課題も多く存在します。以下ではロービジョンをテーマに、医学モデルの限界を考えます。  今このマイクロレクチャーでは、皆さんは、私の映像を明瞭な形で見てくださっていると思います。 ではもし皆さんが、進行すると視野が欠損する疾病にかかったら、皆さんはどうなるでしょうか。どうするでしょうか。  今、私の映像を映しているカメラの状態を変え、視野欠損をイメージできるような映像にしました。皆さんの目の見え方がこのようになったら、皆さんはどう感じるでしょうか。この室内は明るいので、この程度に見えていますが、夜の外出時には、さらに見え難い状態になります。  網膜の機能が低下し、視野欠損が起き、それが固定化した時、医学モデルでは対応が困難です。将来、再生医療がさらに進み、網膜を再生できるようになったり、人工網膜の技術がさらに進歩し、完全に実用化すれば、以前と同様に見ることができる、と考えられます。しかし現時点では、それはやや難しい状況です。  この疾病・障碍を診断した医師は、皆さんに退院を勧めるかもしれません。専門病院に入院していても治療できなければ、入院の意味が薄れます。これが医学モデルの限界です。 では、この状況において、医学モデルとは異なる、もう一つのモデル、社会モデル(生活モデルとも言う)を適用したら、どうなるでしょうか。 2) 社会モデル  社会モデルで大切にするのは、たとえ疾病や障碍を持っていたとしても、その人が社会で生きているという事実です。その人が生きている状況、生活している状況をより詳しく知り、よりよく生活できるようにその人を援助していくのが、社会モデルの考え方です。社会モデルが注目するのは、その人の生きている環境や、関係性です。疾病や障碍の有無にかかわらず、その人が1人のかけがえのない人間であり、その人が「あるがままの自分」で生きようとする際の「生き難さ、生活のし難さ」に注目し、それを援助しようとする発想です。 あなたは以前に比べれば、とても狭い範囲しか見えていません。しかし、よりよく見る工夫を行うことで、本を読んだり、パソコンを使ったりすることも、できるようになります。歩行訓練を受ければ、一人で外出することも可能になります。職業訓練を受ければ、視野欠損になる前の職場で、働き続けることもできるかもしれません。 以上のように、医学モデルから社会モデルに切り替えることで、新たな世界が拓けてきます。医学モデルと社会モデルでは、疾病や障碍に対する立場が異なるのです。このような立場の違いは、疾病や障碍の理解にも影響します。以下では、疾病や障碍の理解を具体的に述べます。 疾病と障碍の分類 1) 疾病分類  医学部など医療系の学部で学ぶ学生の皆さんは、医学モデルに基づいた疾病や障碍の分類を学びます。ではその分類とは、どのようなものでしょうか。  目前の人が、疾病に罹患し、また障碍を負い、その状態からの回復を求めている患者さんの場合、臨床医はその患者さんの病状を診察し、病名を決めます。不幸にして患者さんが亡くなった場合も、死に至った病名(死因)を決めることは重要です。このような場面で、病名を決める際に用いられるのが、医学モデルによる「疾病分類」の考え方です。  ここで言う疾病分類とは「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」のことです。英語では:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems、ICDと略記されます。異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータを体系的に記録し、分析、解釈及び比較を行うために、世界保健機関(WHO)が作成した分類です。最新の 1990 年版は ICD の第 10 回目修正版に当たり、ICD-10 と呼ばれます。わが国では統計調査や、医学モデルの基礎となる医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されています。  では先ほどの視野欠損の状態はICD-10によれば、どう分類されるでしょうか。WHOの分類表を見ると視野欠損は H53.4となっています。また夜になると見えないという夜盲の状態は H53.6です。  以上のようにICD-10では疾病や障碍を記号で表します。医学モデルで出来るのは、疾病や障碍の状態を正確に分類することです。 2) 生活機能分類  では社会モデル(又は生活モデル)の場合、対象者の状態はどのように分類されるのでしょうか。社会・生活モデルの場合に用いられるのが、国際生活機能分類-国際障害分類、英語だとInternational Classification of Functioning, Disability and Healthです。人間の生活機能と障害の分類法として2001 年のWHO総会で採択されました。人の生活機能と障害を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3次元、および「環境因子」等の影響を及ぼす因子でとらえ、アルファベットと数字を組み合わせて約 1,500 項目に分類しました。これまでの旧分類(ICIDH)では、身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利)を分類する、という考え方が中心でしたが、ICFでは環境因子という観点が加わりました。その結果、バリアフリー等の環境を評価できるようになりました。この考え方は、今後、障害者はもとより、全国民の保健・医療・福祉サービス、社会システムや技術のあり方の方向性を示すとされています。  では、さきほどの視野欠損の状態は、生活機能分類によれば、どのように分類されるのでしょうか。再度、先ほどの状態に戻ってみます。  この状態だと目の前に人がいても、表情を確認することも難しく、コミュニケーションが取れません。手を使う仕事も困難です。このような難しさ、困難さを分類することは、できるのでしょうか。 疾病分類、ICD-10の場合は「H53.4視野欠損」と分類されて終わりでした。しかし生活機能分類ICFであれば、コミュニケーションの項をみると以下のような分類があります。   コミュニケーションの理解    d310話し言葉の理解    d315非言語的メッセージの理解    d320 公式手話によるメッセージの理解、    d325 書き言葉によるメッセージの理解    d329 その他の特定のコミュニケーションの理解   仕事と雇用の項は以下の分類です。    d840 見習研修(職業準備)、    d845 仕事の獲得・維持・終了、    d850 報酬を伴う仕事、    d855 無報酬の仕事、    d859 その他の仕事と雇用  このように、ICFを用いることにより、疾病や障碍にともなう多様な社会的・環境的な要因の状態を記述し分類できることになりました。記述し分類する世界共通の基準があることは、課題を認識し課題解決に向かう出発点です。  かって医学モデルにより、疾病や障碍を世界共通の基準で分類できることになった結果、医学は大きく進歩しました。今、社会モデルが加わることにより、疾病や障碍の有無に関わらず、その人の「あるがままの自分」を支援する考え方が、大きく発展しつつあります。 誰もが生きやすい世界に向けた考え方 1) バリアフリー  障碍者を含む高齢者等の社会生活弱者、障碍者が社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的なバリア(障壁)や精神的なバリアを取り除くための施策、もしくは具体的にバリアを取り除いた状態を「バリアフリー」といいます。一般的には障碍者が利用する上でのバリアが取り除かれた状態として広く使われています。国連障害者生活環境専門家会議報告書「バリアフリーデザイン」では、緒言でバリア(障壁)を「物理的バリア」と「社会的バリア」とに分類し、バリアを除くために社会的な意識の変革が必要だとしています。  同報告書では、バリアを作り出す原因として架空の人物「Mr.Average」が図示されています。バリアが生み出される要因は、設備やシステムがそれらの「実在しない人々」のニーズに応えるように作られているためだ、と指摘します。Mr.Average は、肉体的にもっともよく適応できる壮年期の男性(女性ではない)の象徴で、「統計的には少数の人しかMr.Averageに相当しない」と理解されます。 先ほどの視野欠損の状態で言えば、バリアフリーとは、つまずき易い障害物を取り除く、という発想です。 2) ユニバーサルデザイン(最後に)  ユニバーサルデザイン(Universal Design、UD)とは、障碍の有無やその人の能力に如何に関わらず、またその人の文化的・社会的な立場の如何に関わらずに利用でき、利用しやすい施設・製品・情報などのデザイン(設計)をいいます。  バリアフリーが既存の世界に存在する障碍者にとってのバリアを取り除く点を強調するのに対し、ユニバーサルデザインは、障碍の有無や立場がどのようなものであるかに関わらず、それぞれが共に生活しやすい世界を構築する点を強調します。 キーワード 医学モデル、ロービジョン、医学モデルの限界、視野欠損、医学モデルの限界 社会モデル(生活モデル)、職業訓練 疾病分類、死因、疾病分類、疾病及び関連保健問題の国際統計分類、ICD、WHO、ICD-10統計調査、医学モデル、診療録管理 生活機能分類、国際生活機能分類-国際障害分類、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3次元、「環境因子」、社会的不利 バリアフリー、バリアフリーデザイン、バリア(障壁)、物理的バリア、社会的バリア、Mr.Average ユニバーサルデザイン(Universal Design、UD) (守山正樹)}, title = {医学モデル/社会モデル/バリアフリー/ユニバーサルデザイン:体感的な学習による意味の再発見}, year = {2014}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }