@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000645, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Mar}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さん、こんにちは。今回は、生命倫理/バイオエシックス/医の倫理とは何か、その基本についてです。  倫理とは日本国語大辞典によると「人倫の道。社会生活で人の守るべき道理。人が行動する際、規範となるもの。」です。倫理学は哲学と同様に起源が古く、古代ギリシャ時代に遡る一方で、特に20世紀後半から新たな動きも始まりました。 バイオエシックス Bioethics  「生命」を意味するBioと「倫理(学)」を意味するEthicsが結びついた言葉として、バイオエシックスがあります。生化学者ポッター が生物学、生態学、医学、人間学などの諸分野をつなぎ、生命の価値のグローバルな倫理を表す言葉として「バイオエシックス」を用い、1970年代初め、アメリカから言葉の使用が拡がりました。バイオテクノロジーの発展により生命の意味が揺らぎ始めた事態に対応し、新たな倫理構築の動きとして理解されます。  バイオエシックスで大切な点をダリル・メイサー氏の著書「生命倫理学への手引き」1996年3月から要約して以下に示します。  ①選択しながら考える; 科学技術を用い、数多くの重要な決定を行わなければならない私たちの社会で、意思決定と同時に考えることが大切です。  ②自主性を大切に考える; 人それぞれに異なる私たちが、各人の価値観を持った上で、人々を等しく尊重することが、求められます。  ③公正性を大切に考える; この社会が尊重されるべき多くの命から成り立ち、そこに住むどのような人々にも、等しく公平な機会が与えられるべきです。  ④愛: 何かを理由づける際、人々がすべきは「良いことをする」と「害をなさない」とのバランスをとることで、この過程が愛という概念で、まとめられます。  ⑤動物への義務; 人間中心の倫理だけではなく、他の生命や要因を考えます。  ⑥管理責任; 人は自然に対し、多くの義務を負います。「ただ人間の欲望を満たすためだけで、自然に手を加えない」「他の生物をも愛する」は「管理責任」です。  ⑦対立する規範相互のバランスを取る; 人間は倫理的な決定を避けて通れません。様々な技術は利益の一方で危険性をもはらみ、バランスは大切です。 医の倫理の系譜  では次に歴史をさかのぼり、医の倫理に関連した重要な考え方を見て行きます。 1 医療者の誓い 【ヒポクラテスの誓い】   古代ギリシャ(前460-357年頃)のヒポクラテスによる誓いは、医師倫理の出発点です。要点を以下に示します。  〇医神アポロン・・・すべての男神と女神に誓う。私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。  ①この術(医術)を私に教えた人を親のごとく敬い・・・助ける。  ②その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。・・・  ③私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。  ④頼まれても死に導くような薬を与えない。・・・婦人を流産に導く道具を与えない。  ⑤純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。  ⑥結石を切りだすことは・・しない。・・・  ⑦いかなる患家を訪れる時もそれはただ病者を益するため・・・勝手な戯れや堕落の行いを避ける。・・・  ⑧・・・他人の生活について秘密を守る。  ⑨この誓いを守りつづける限り、・・・尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。 【ナイチンゲール誓詞】1893年  看護の分野でヒポクラテスの誓いに相当するのは、ナイチンゲール誓詞です。近代看護教育の母と言われ、クリミア戦争での負傷兵への献身や統計に基づく医療衛生改革で有名なフローレンス・ナイチンゲールの偉業をたたえ、「ヒポクラテスの誓い」にならって1893年に作成されました。要点を以下に示します。  ・厳かに神に誓う、  ・任務を忠実に尽くす、  ・毒あるもの、害あるものを絶つ、  ・悪しき薬を用いず、また勧めない、  ・力の限り任務の標準を高くする、  ・秘密を守る、・医師を助ける。 【ジュネーブ宣言】1948年  ヒポクラテスの誓いを現代的な言葉で表したのがWMA(世界医師会)が1948年に出し、以後数回の改訂を経たジュネーブ宣言です。要点を以下に示します。  ・人類に奉仕する、  ・師への尊敬と感謝を示す、  ・良心と尊厳をもって医療に従事、  ・患者の健康を最優先する、  ・医師という職業の名誉と高潔な伝統を守る、  ・同僚の医師を兄弟とみなす、  ・年齢/疾病/信念/民族等々による干渉を避ける、  ・人命を最大限尊重する、  ・医学知識で人の権利を侵さない、  ・これらを名誉にかけて約束する。 2.臨床実験の倫理  18世紀以降、ジェンナーの種痘法に代表されるような実験的な試みが続々となされ、医学と医療技術は急速に進歩し始めます。しかし、当時はまだ医学の実験的な側面への倫理が未発達でした。その結果起こった悲惨な事件が1946年のニュルンベルク裁判で明らかになりました。これはナチス・ドイツによる第二次世界大戦中の戦争犯罪を裁く国際軍事裁判です。同裁判の第一法廷/第一事件では、被告23人中、20人が医師でした。罪状は人を動物とみなしての人体実験。超高度曝露/低体温曝露/マラリア感染/毒ガス曝露/薬剤投与等々、多種多様な行為が裁かれました。  戦時中の人体実験は日本も例外ではありません。満州で生物兵器の研究・開発や人体実験を行った731石井部隊事件が知られています。1945年には、九州爆撃のため飛来した米軍機B-29が熊本・大分県境で撃墜され、捉えられた搭乗員に対して、九州のある大学で生体解剖がなされています。  1947年にはニュルンベルグ裁判の反省に立って、ニュルンベルグ・コード(綱領)が作成され、研究目的の医療行為(臨床試験、臨床研究)を行うにあたって厳守すべき基本原則10項目が示されました。  このコードが元になり、1964年の世界医師会総会で採択されたのが「医学研究者が自らを規制する、人体実験に対する倫理規範」「ヘルシンキ宣言」です。概要を以下に示します。 【ヘルシンキ宣言】1964年  ・ヒトを対象とする医学研究では、被験者の福利への配慮が、科学的及び社会的利益よりも優先。  ・最善と証明された予防、診断及び治療方法でも・・絶えず再検証が必要。  ・現行の医療や医学研究では、ほとんどに危険と負担が伴う。  ・医学研究は、全人間への尊敬を深め、健康と権利を擁護する倫理基準に従う。弱い立場、特別な保護を必要とする人々に注意。不利な立場の人々のニーズを認識。自ら同意や拒否できない人々、・・・研究から個人的に利益を得られない人々へも特別に注意。  ・いかなる倫理、法や規制上の要請も、この宣言が示す被験者への保護を弱め、無視することが許されてはならない。 3.患者の立場の尊重  医の倫理や医学研究の倫理が確立される一方で、医師・患者・社会の関係が変化し、それまで弱い立場にあった患者の権利が注目され、その宣言が生まれました。 【患者の権利宣言/リスボン宣言】1981年  ①良質の医療を受ける権利・・・すべての患者は・・・外部干渉も受けずに自由に・・・医師から治療を受ける権利を有する・・・  ②選択の自由の権利・・・患者は・・・医師/病院/保健サービス機関を自由に選択し、変更する権利を有する。  ③自己決定の権利・・・患者は自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する・・・  ④意識のない患者・・・患者が意思を表明できない場合・・代理人か可能な限りインフォームド・コンセントを得る  ⑤法的無能力の患者  ⑥患者の意思に反する処置・・例外的事例としてのみ。  ⑦情報に対する権利・・・患者はいかなる医療上の記録であれ・・・自己の情報を受ける権利、・・・十分な説明を受ける権利を有する・・・  ⑧守秘義務に対する権利・・・個人を特定しうる・・情報、その他個人の全情報は、患者の死後も秘密が守られなければならない・・・  ⑨健康教育を受ける権利・・・すべての人は・・・情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利がある・・・  ⑩尊厳に対する権利・・・・・患者の・・・尊厳とプライバシーを守る権利は・・・常に尊重される・・・  ⑪宗教的支援の権利・・・患者は・・・精神的、道徳的慰問を受けるか受けないかを決める権利を有する. 臨床の場で考える  社会生活を規制する意味では、法律は倫理と似ていますが、同じではありません。法律は守られている状態が大切で、違反の場合、罰則が生じることがあります。一方、倫理は「人の守るべき道理」で、倫理規定に違反しなければ良い、というものではありません。倫理は「最低限守るべき道理」であり、法律を越えた存在です。たとえばヘルシンキ宣言は、どのような国内法を持っている国でも有効です。  倫理の課題は、日常のあらゆる場面で発生します。倫理規定やインフォームドコンセントがあれば、問題が無くなるわけではありません。対話し考えることが大切です。以下、臨床の場で倫理を考える実践的方法を紹介します。 【臨床倫理4分割法】  Jonsen氏らが著書『Clinical Ethics』で1992年に示した倫理的な症例検討の考え方です。日本では白浜雅司氏によって普及しました。「①医学的適応/②患者の意向/③QOL/④周囲の状況」と4項目に分割された表(ワークシート)に関連の人々が課題を書き込み、考える方法です。医師や看護師やソーシャルワーカーから患者さん自身や家族までもが、この表で思いや考えを整理し、バランスが取れた視野で意見交換するための枠組み、と位置付けられます。各4項目には関連の倫理原則も含まれます。  ①医学的適応: まず「診断・予後・治療目標等」が医療者から示されます。倫理原則は「患者が恩恵を受けられるか、害を避けられるか」です。  ②患者の意向: 「患者としての受けたい医療、理解や同意、判断」が検討されます。倫理原則は「患者の選ぶ権利の尊重」です。  ③QOL: 「患者のQOL」が検討されます。倫理原則は「ウェルビーイング、幸福の追求」です。  ④周囲の状況: 「家族や関係者の利害、費用、宗教、施設の方針等」が検討されます。倫理原則は「公正と効用の追求」です。 最後に  結局、倫理で大切なのは、人間関係の中で学び、問題解決を行うことです。  学生の皆さんは、もうすぐ社会医学の学外実習として、介護施設や保健所などを訪問します。 皆さんは、まだ臨床医学を学び始めたばかりです。特に何かの医療行為が出来るわけではありません。しかし、そうであっても人間としての様々な行為が出来るはずです。  出発点は挨拶です。挨拶の意味を探っていくと、倫理との結びつきが見えて来ます。挨拶に関心のある人は、以下の考察にも目を通してください。    ・挨拶の意識化    ・挨拶は実験できるか!? またM1の医学概論では、自分の手を使った働きかけ方も学びました。思い出してください。    ・東洋医学的発想とM-test 訪問する場所では、スタッフの方々、入所者の方々、患者さんなどに対して礼節を持って接し、その場の雰囲気を感じ、皆さんに出来ることを考え、自分の役割を見出してください。 最後に大切なのは傾聴、「傾けて聴く」と書きます。以下、コトバンクからの引用です。「傾聴とは、人の話をただ聞くのではなく、注意を払って、より深く、丁寧に耳を傾けること。自分の訊きたいことを訊くのではなく、相手が話したいこと、伝えたいことを、受容的・共感的な態度で真摯に“聴く”行為や技法を指す。それによって相手への理解を深めると同時に、相手も自分自身に対する理解を深め、納得のいく判断や結論に到達できるようサポートするのが傾聴のねらいだ。」 キーワード バイオエシックス、生命倫理学、選択/自主性/公正性/愛/動物への義務/管理責任/対立する規範相互のバランス 医の倫理の系譜、医療者の誓い、ヒポクラテスの誓い、ナイチンゲール誓詞、ジュネーブ宣言、WMA(世界医師会) 臨床実験の倫理、ジェンナー種痘法、ニュルンベルク裁判1946、際軍事裁、戦時中の人体実験は、731石井部隊事件、九州での生体解剖1945、ニュルンベルグ・コード(綱領)1947、ヘルシンキ宣言1964 患者の立場の尊重、患者の権利宣言/リスボン宣言1981、インフォームド・コンセント、法的無能力、守秘義務、尊厳に対する権利、宗教的支援の権利 臨床の場で考える、倫理規定、インフォームドコンセント、臨床倫理4分割法、医学的適応/患者の意向/QOL/周囲の状況、傾聴}, title = {生命倫理/医の倫理:意味と考え方の原則}, year = {2018}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }