@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000641, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Aug}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。今回は疫学の3回目、主要な疫学研究デザイン・研究方法のまとめです。既に何度も出したこの分類をもとに見ていきます。 1 記述疫学研究  人・空間・時間の3つの観点で疾病の分布を記述する研究です。疾病の特徴を明らかにして、曝露要因と疾病発生に関する仮説を考える出発点になります。新聞を毎日読み、ニュースに注意を払うと、記述疫学的に考える訓練ができます。今日の朝刊の紙面を眺め、疾病のニュースを探して下さい。季節によりインフルエンザ、花粉症、熱中症などが目にとまります。環境汚染に関する疾病から、地球温暖化の影響による異常気象下での災害や健康障害、原発事故に伴なう放射線障害、感染症の増加に至るまで、疾病や障害の記事が見当たらない日はないでしょう。特定の疾病に注目し、人(誰が)空間(どこで)時間(いつ)の情報を記事から読み取り、疾病の拡がりや特徴を思い浮かべ、分ったことを記述してください。このように考え始めることが記述疫学の出発点です。 2 生態学的研究  生態学的とは「集団自体と集団の置かれた状況への着目」を意味します。生態学的研究は、人間集団を単位として「要因(原因)への暴露状況」と「疾病頻度」との関係を検討します。このグラフを見てください。横軸は1日当たりの脂肪摂取量、縦軸は乳癌の年齢調整死亡率です。個々の点は一人ひとりの人ではなく、各国を示します。このような生態学的な情報のグラフから、要因曝露と疾病罹患との間に、因果関係の仮説を立てることが可能です。「脂肪の摂取量が増えると、乳癌の死亡が増える」という仮説はどうでしょうか。  集団を単位とするデータの場合、国や自治体が国民や住民の健康状態を知るために、独自の調査を行い情報を公開する場合も増えています。ネット検索などで情報を得て、それをグラフ化することで、学生のみなさんも独自の仮説を立てるなど、生態学的研究を始めることができるでしょう。 3 横断的研究  横断的研究とは、ある1時点で行う横断調査、アンケート調査による研究です。アンケート調査なら皆さんにも出来るでしょう。調査票の設計に当たっては、まず対象者の性別や年齢・職業などの個人情報を把握した上で、さらに「仮説的な原因・要因暴露」や「仮説的な結果・疾病罹患」についての調査項目(質問)を用意することが大切です。  以下、対象者100人に調査票(アンケート)に回答してもらえた場合を考えてみます。各調査項目に対し、100人中の何人が、どう答えたかを知ることは、調査票分析の最初の一方です。複数の調査項目が組み合わされた条件に、当てはまる人数を知ることから、より詳しい分析が行えます。 “運動不足の有無”や“肥満の有無”で100人を4群に分けた表を作ることもできます。表の数値を観察することで、運動不足がなくて肥満している人は、全体(100名)の5%などの知見が得られます。ではこの表からad/bc=14とオッズ比を計算して「“運動不足のあること”が原因となって“肥満”が起こった」などと結論できるでしょうか。この場合は結論できません。なぜなら「運動不足になったから肥満になった」と「肥満になったから運動不足になった」とを区別できないからです。アンケート調査の場合、全ての情報は調査の一時点に得られたもので“時間的前/後”や“原因/結果”の区別が難しく、因果の逆転(原因と結果の逆転)も起こりえます。 4 コホート研究  コホート研究は仮説的原因・要因曝露に従って2群を設定した後、追跡する研究方法です。“健康な人々、病気にかかっていない人々”を対象として、“何らかの要因(原因)に曝露されている集団”と“曝露されていない集団”を設定し、10年20年と追跡して、疾病や死亡の発生を観察します。 コホート研究は症例対照研究に比べ、長期間の追跡が必要であり、すぐに結果を出すわけにはいきません。しかし学生の皆さんでも、同級生をコホートとして、同窓会名簿などを活用し、卒後10年目ごとに追跡調査を繰り返すコホート研究であれば、実行可能です。看護師や医師など医療従事者は医学研究に協力的なことが多く、海外では医療従事者をベースにしたコホート研究が数多く行われています。  皆さんもコホート研究を目指し、学生時の何らかの生活習慣を要因曝露と仮定し、その結果、卒後10年20年30年目に何らかの疾病が起こるとして、仮説を考え、矢印で表現してみましょう。   “趣味が少なく、勉強づけの生活” → → “認知症発症”   “高脂肪食の摂取” → → “虚血性心疾患発症”  上記の仮説によってコホート研究を行う場合、卒業時のベースライン調査では要因曝露として「趣味の有無、勉強の仕方、食事内容」などを調べます。また卒後10年目ごとに行う追跡調査では疾病罹患として「物忘れが始まった、認知症と診断された」「労作時に胸痛を感じた、虚血性心疾患と診断された」などを調べることになるでしょう。  卒業時のベースライン調査で、趣味が豊かな人が50人、無趣味な人が50人いたとします。30年後の追跡調査で、趣味豊か群からは物忘れ者が5人、無趣味群からは物忘れ者が15人でました。これより、物忘れの罹患率は、趣味豊か群で5/50、無趣味群で15/50、相対危険度は3、寄与危険度は10/50と計算されます。 5 症例対照研究  症例対照研究は、研究対象とする疾病に罹患した患者集団(症例群)と、その疾病に罹患したことのない人の集団(対照群)を選び、疾病の仮説的原因への曝露(要因曝露)の有無を、過去の記録や記憶から明らかにし、その割合を比較する研究方法です。  まだ若く、健康な状態にある学生の皆さんの場合も、日常的で軽微な健康課題に着目し、それを“疾病罹患”として、症例対照研究の視点で考えることは大切です。 “ネットへの依存傾向”、“授業に出る意欲が無く、閉じこもりがちの傾向”、“食べ過ぎによる肥満傾向”、“夜更かしし、朝起きられない傾向”など、皆さんにも心当たりがないでしょうか?  例えば同じ大学で、症例群として「ネット依存傾向のある学生群」を、また対照群として「ネット依存傾向のない学生群」を設定できたら、症例対照研究を試みてみましょう。  まず一人のネット依存者(症例群)を選び、その人が“男性で1年生”だったら、その症例に対応してネット依存ではない人(対照群)を選ぶときも、“男性で1年生”を探すなど、仮説的原因以外の要因(性、年齢、学年など)が両群で等しくなる選び方を、マッチングといいます。マッチングは、症例と対照の比較における統計的効率を上げることができます。しかし仮説的原因までマッチングすると、原因究明ができなくなるので、注意が必要です。  症例群と対照群を設定したら、両群について、過去の要因暴露を調べます。症例対照研究の場合、コホート研究のような長期間の追跡は必要ありません。既に結果としての疾病罹患が生じているので、“過去に生じた曝露”が研究の中心です。  学生でのネット依存の場合、それ以前、子供時代における要因曝露につき、可能性がある環境要因などを質問することになります。兄弟数、居住地(田舎か都会か)、部活の有無、夜更かしの有無、躾の厳しさ・・と、考え付いた項目を挙げて、過去の要因曝露を調べる調査表を作成し、聴き取り調査を行います。  ネット依存者50人、対照者50人の双方から、協力が得られたとします。4分表のここに50という数字を書き込みます。過去の要因暴露として“幼少時の夜更かしの有無”を聴き取った結果、ネット依存者50人中、夜更かし者40人、対照者50人中、夜更かし者10人という数字が得られました。これよりネット依存者でのオッズは40/10=4.0、対照者でのオッズは10/40=0.25、オッズ比は16となります。 6 介入研究  最後は介入研究です。「趣味の多さ、高脂肪食、夜更かし」などの要因曝露は、上述の観察研究では、現実の社会の中で自然に生じていました。しかし疫学1の高木兼寛やウィリアム・フレッチャーの場合のように、研究者が要因曝露を人為的・実験的に決められるなら、因果の逆転を生じることなく、交絡因子の影響を排除し、厳密に、要因曝露と疾病罹患の関係を解明できます。これが「介入研究:人為的に要因曝露を行うコホート研究」つまり「人体実験」です。 介入研究は、臨床的に薬の効き目を調べる際などに、よく使われる専門性の高い研究方法です。しかし学生の皆さんの場合でも、部活や勉強の仕方を実験的に操作できれば、介入研究を行えます。  西医体の前一カ月間の部活の練習メニューをAとBの二種類作成し、部員をいずれか一方のメニューに割り付ければ、練習AとBを比較する介入研究ができます。 このマイクロレクチャ-を用いても介入研究は可能です。学生を「映像だけで学習するA群」と「テキストだけで学習するB群」に割り付ければ介入研究を行えます。  介入研究では“介入群”だけでなく、介入を受けない“対照群”の存在が不可欠ですが、研究者が意図的に2群への割り付けをした場合、交絡因子(過去の成績のように、練習や勉強、あるいはその結果に関連する要因)の影響を否定できず、研究に偏り(バイアス)が生じます。よって厳密には割り付けのランダム化(無作為化)が必要です。介入研究はランダム化比較試験と非ランダム化比較試験に分かれます。  ランダム化は難しいことではありません。サイコロやコインがあれば、すぐにランダムな状態を生み出せます。皆さんも試してみてください。  さて、疫学の考え方、因果関係、主要な研究方法と、三回に分けて、疫学についてお話ししました。 疫学の出発点は流行など世界で起きている現象に関心を持ち、因果関係の可能性を考え、仮説を立てることです。因果関係かどうかを確認する5つの判定基準も復習しておいてください。 キーワード  記述疫学研究、生態学的研究、要因への曝露状況、疾病頻度、横断的研究、アンケート調査、因果の逆転、コホート研究、長期間の追跡、罹患率、症例対照研究、介入研究、割り付けの無作為化、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験}, title = {疫学の基本3 : 研究方法}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }