@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000640, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Oct}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。今回は環境と環境汚染についてお話します。 1 環境の考え方 1)主体環境系  環境とは、生物や人間の個体を取り巻く全て(全体、系、システム)です。中心の「主体」に「周囲全てのもの」が加わり「主体環境系」になります。  医療や保健系の学生の皆さんは、主体、特に人体を学ぶことが多いでしょう。人体は範囲が限定され、把握は簡単です。今、カメラには私という主体が写っています。では周囲全てを含む「環境」はカメラで写せるでしょうか。・・・ 簡単ではありませんね。 2)4大元素説  複雑さにひるまず「私たちの周囲の全て」「この世界」「環境」をどう認識するかは古代からの課題でした。古代インド・ギリシャ時代から中世までは「世界は4つの元素で構成される」との考え方がありました。4大元素classical elementsとは火・空気・水・土を指します。この考え方はルネサンスに入ると揺らぎ、古代ギリシャ発の原子論が再び注目されました。その後、科学的な原子論が発展する一方、4大元素説は科学の世界から姿を消しました。 3)生態学の考え方  私たちの住む世界の環境は複雑です。複雑さを捉えるために“生物と環境の相互作用”に注目する「生態学」や関連の考え方は重要です。  生態学: 古代ギリシャでの動物や植物群落の研究に始まり、大航海時代の地理上の発見、昆虫の生活史、植物や動物の分類研究など、様々な知見の集積から生態学が生まれました。1935年には生態学者タンズリーが、生物群集と生息空間との間に成り立つ相互作用の系を「生態系ecosystem」と名づけました。  地球: 地球には“表面の岩石部分・奥の高温の個体・流動するマントル”からなる「地圏」、表面の湖・川・海など水からなる「水圏」、大気からなる「気圏」、さらに各圏での生命の生息場所からなる「生物圏」が区別されます。  食物連鎖・生態系ピラミッド: 植物以外の生物は他の生物を食べて生きます。この“食う/食われる”の関係が「食物連鎖」です。出発点の緑色植物は、空気中の二酸化炭素と水から、紫外線エネルギーを利用して有機物を生産・生合成するため、植物を生産者ともいいます。植物を食べて生きるのが草食動物(1次消費者)、草食動物を食べて生きるのが肉食動物(2次消費者)、肉食動物を食べて生きるのが上位肉食動物(3次消費者)です。生産者から3次消費者に至る関係を、図示したのが生態系ピラミッドecological pyramidです。  生物濃縮: 植物は1/10量の草食動物を養い、草食動物はその1/10量の肉食動物を養います。これが「10%の法則」です。底辺の生物(植物など)に有害物が含まれた場合、それを食べる上位の生物中では濃度が10倍に、その上の食物連鎖の動物の体内ではさらに10倍に、4段階の食物連鎖では10の4乗、1万倍に濃縮されます。  太陽光エネルギーの流れ: 食物連鎖の出発点は植物、植物の元になるエネルギーは太陽光です。太陽光エネルギーの2%が生産者(植物)により、有機物として固定され、食物連鎖の中で次々に食べられます。生物は最後には死亡し、分解者(細菌やカビ)によって分解され、栄養塩類にまでなり、再び植物に利用されます。利用されない98%以上の太陽光エネルギー、最後は宇宙に戻ります。 2 環境汚染・公害  多くの生物が環境を形成し、微妙なバランスでエネルギーと物質が循環します。この循環の中で生まれたヒトの文明活動が、環境汚染を引き起こしました。環境は複雑で、環境汚染の因果関係の究明は困難です。汚染が起きて相当時間が経ってから、ヒトが問題に気づき、問題解決を図ることを繰り返してきました。  公害: 公害public nuisanceとは「人口増加、都市化などにより、エネルギーや資源の消費が増大し、環境中への排出物が増加し、広い範囲で生活環境汚染や健康被害が生じること」です。日本では江戸時代の別子銅山鉱毒事件、明治時代の足尾銅山鉱毒事件などが知られていますが、大きな社会問題となったのは、第二次世界大戦後1950年代後半からで、4大公害病として、水俣病・新潟水俣病・四日市喘息・イタイイタイ病があります。様々な公害の発生を受けて、1967年には公害対策基本法が成立し、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭が典型7公害とされ、環境基準が設定されました。1972年には自然環境保全法が制定される一方、大気汚染防止法や水質汚濁防止法が改正され、公害について事業者の無過失損害賠償責任が定められました。公害の影響による健康被害者の迅速かつ公正な保護を図ることを目的として公害健康被害補償法が1973年にできました。その後1993年には公害対策基本法と自然環境汚染防止法が統一され環境基本法となりました。  水俣病: 1956年 熊本県の水俣湾沿岸で、1965年 新潟県阿賀野川流域で、原因不明の病気が現れました。四肢末梢の感覚障害、異常歩行、視野狭窄などが特徴の中枢性神経障害(ハンター・ラッセル症候群)が認められました。後年、工場排水中の有機水銀(メチル水銀)が生物濃縮した魚などの長期摂取が原因だと分りました。母体の汚染魚介類摂取で出生児に知能障害、運動機能障害が現れる胎児性水俣病も発生しました。政府が公式に有機水銀中毒が原因と認めたのは1968年、ほぼ50年後の今でも、多くの方々が救済を求めています。  イタイイタイ病: 富山県神通川流域で第二次世界大戦後から多発した、全身の骨の痛みを訴える原因不明の疾患です。後年、原因は鉱山の排水中のカドミウムによる水質汚濁と水田からコメへの汚染、と分りました。腎障害、骨軟化症、骨折による激痛を生じました。 慢性ヒ素中毒; 1970年代、宮崎県土呂久地区と島根県笹ヶ谷地区で、鉱山から排出された亜ヒ酸により、地域住民に慢性ヒ素中毒、皮膚障害(皮膚がん、色素沈着、角化症)・視力障害・末梢神経障害などが発症しました。  四日市喘息: 1960年頃から三重県四日市市の石油コンビナートから排出される二酸化硫黄などを多量に含んだ有害ガスが原因で、住民に気管支喘息や慢性気管支炎が多発し、特に幼児と40歳以上の中高年層に被害者が出ました。 3 地球環境問題  1980年頃までには、環境の法律の整備が進み、公害病の新発生は収まり、地域の環境問題は解決が近づいたと考えられました。しかし国境を越える大きな環境汚染が始まっていました。地球環境問題です。  沈黙の春: レイチェル・カーソンの本「Silent Spring沈黙の春」1962年は世界的に環境汚染が注目されるきっかけとなりました。本の第一章後半から引用します。 There was a strange stillness. The birds, for example - where had they gone? Many people spoke of them, puzzled and disturbed. The feeding stations in the in the backyards were deserted. The few birds seen anywhere were moribund; they trembled violently and could not fly. 本では、殺虫剤として日本でも広く使われたDDTなど化学物質の残留毒性が指摘され、昆虫も鳥も死に絶える生態系への影響の可能性が警告されました。  緑の後退と砂漠化: 世界中で緑の後退、砂漠化、生物種の減少が進んでいます。地球の肺といわれ、生物種の故郷でもある熱帯雨林は、ブラジルのアマゾン川流域、アフリカのコンゴ川流域、アジアの島々にありますが、大規模開発で毎年12万km2ずつ(日本の国土面積の1/3近く)減少しています。国際自然保護連合は、世界の野生生物から絶滅の恐れのある種を選びレッドリストとして公開しています。国連はミレニアム生態系評価として、化石から過去の絶滅の速度を計算し、現在と比較し、絶滅の速度の増加を警告しています。  オゾンホール; 大気中の酸素は、植物の出す酸素によって徐々に増加してきました。地球の成層圏では、太陽の紫外線のエネルギーで酸素O2がオゾンO3に変化し、厚いオゾン層となり、有害な太陽の紫外線を99%吸収し、地表の生物を保護していました。ところが1970-80年代、オゾン層が南極で著しく薄くなる現象、オゾンホールが発見されました。ヘアスプレーや冷蔵庫クーラーの冷媒として世界中で使われたフロンが上空まで拡散し、化学反応を起こし、オゾンを消滅させたのです。  オゾンが減り、地表にくる紫外線が増えると、植物プランクトンの減少、農作物の減少が起き、ヒトでは皮膚ガンや白内障の増加が懸念されます。国際的には1987年「オゾン層の破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、国内では1988年にオゾン層保護法、2001年にフロン回収破壊法ができ、対策が進みました。  地球温暖化: 猿人は一日一人当たり2千kcalの食物を消費するだけでした。その後、工業化が進み、消費が増え、現在ヒトは一人当たり23万kcal(猿人の百倍以上)のエネルギーを消費しています。20世紀、化石燃料が工業国で大量に消費された結果、大気中の二酸化炭素の増加が早まり、19世紀末の290ppmから2013年には400ppmにまで増加し、さらに増加を続けています。  太陽光を受けた地球から放射される赤外線を、大気中の二酸化炭素が吸収すると気温が上昇し「温室効果」がうまれます。気候変動に関する政府間パネルが公表した第5次評価報告書は「現状を上回る努力がなければ、2100年の気温は産業革命以前と比較して3.7から4.8℃上昇する」と警告しています。対策として1997年には気候変動に関する国際連合枠組み条約第3回締結国会議が京都で開催され、先進国の温室効果ガスの排出量の削減目標を定めた「京都議定書」が採択されました。現在もこの議定書にそって削減目標が定められ、地球温暖化対策推進法による対策がなされています。 最後に  私が大学院に進んだ1975年、日本の医学部のほぼ全ての衛生学や公衆衛生学教室では、公害や職業病の研究が行われていました。院生として師事した鈴木継美先生は、水俣病の原因でもある水銀(有機水銀)中毒、また人類生態学がご専門でした。院生として又長崎大学で助手としてお世話になった竹本泰一郎先生は、長崎の離島から南米ボリビアの高地に至るまで、多様な環境でのヒトの健康と適応を研究しておられました。その後、長崎大学衛生学教室でお世話になった齊藤寛先生は、腎臓病の専門家である一方、秋田の小坂鉱山から対馬の対州鉱山に至るまで、カドミウム汚染と地域保健の研究を進めておられました。医師であり、優れた研究者でもある3人の恩師から教えていただいた環境保健の興味深さを、学生の皆さんに少しでもお伝えしたいと思っています。 さて現在、地球を患者さんに例えるなら、環境汚染という病気がかなり進行した状態にあります。この病気、地球環境問題が難しいのは、治療が困難な点です。ここに「The World without US」という本があります。ヒトがいないと地球はどうなるか、が書かれています。地球環境問題の最大の原因はヒトの存在です。だから、この本にあるようにヒトが地球上から姿を消せば、地球環境は元気になるでしょう。でもそれでは困りますね。ではどうしたらいいでしょうか。皆さんも一緒に考えてください。 キーワード 主体環境系、4大元素説、原子論、生態学、生物群集、生息空間、生態系、地球、地圏、水圏、気圏、生物圏、食物連鎖・生態系ピラミッド、生産者、1次消費者、2次消費者、3次消費者、生物濃縮、10%の法則、太陽光エネルギーの流れ  環境汚染・公害、別子銅山鉱毒事件、足尾銅山鉱毒事件、4大公害病、水俣病・新潟水俣病・四日市喘息・イタイイタイ病、公害対策基本法、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭、典型7公害、環境基準、自然環境保全法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、事業者の無過失損害賠償責任、公害健康被害補償法、公害対策基本法、環境基本法、水俣病、ハンター・ラッセル症候群、メチル水銀、胎児性水俣病、イタイイタイ病、富山県神通川流域、排水中カドミウム、水質汚濁、腎障害、骨軟化症、骨折の激痛、慢性ヒ素中毒、宮崎県土呂久地区、島根県笹ヶ谷地区、亜ヒ酸、皮膚障害・視力障害・末梢神経障害、四日市喘息  地球環境問題、沈黙の春、レイチェル・カーソン、DDT、化学物質の残留毒性、緑の後退、砂漠化、生物種の減少、地球の肺、熱帯雨林、大規模開発、国際自然保護連合、レッドリスト、ミレニアム生態系評価、オゾンホール;地球の成層圏、フロン拡散し、オゾン消滅、紫外線増加、モントリオール議定書、オゾン層保護法、フロン回収破壊法、地球温暖化、温室効果、気候変動に関する政府間パネル、気候変動に関する国際連合枠組み条約、京都議定書}, title = {環境保健1 : 環境とは・生態系・食物連鎖・生物濃縮・環境汚染・公害・地球環境問題}, year = {2014}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }