@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000638, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Aug}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。これまで母子、学校、地域、職業など人のライフサイクル(life cycle生活周期)をたどり保健を学んできました。今回は高齢期です。 1 考え方 1)加齢と老化 加齢現象は時間的経過に伴って生物に生じる変化の総称です。 老化は、加齢現象の中でも不可逆的な退行性・有害性の変化です。脳など殆どの臓器で細胞数や重量が減り、生理機能や運動機能が低下します。加齢による機能低下の症状が「老年症候群geriatric syndrome」、不活発な生活で心身の機能を充分に用いない状態が続き、機能がさらに低下するのが「廃用症候群disuse syndrome」です。 2)サクセスフル・エイジング successful aging 大きな個人差も老化の特徴です。老化や加齢を病的・否定的にみるだけでなく、前向きにみる考え方successful agingは1950年代に表れ、1980年代から一般化しました。Rowe & Kahn(1987) は老化を「通常の老化usual aging」と「成功した老化successful aging」に分けることを提案しました。また成功した老化では、病気や障害が見られず、認知・生理的機能が高く、社会との前向きな関わりがある、としました (Rowe & Kahn, 1997)。その後、初期のsuccessful agingの定義が高齢者の内面への考慮を欠くことや、成功しない老化はどうなるのか等の課題が指摘され、一歩進んだsuccessful agingの考え方, active aging, healthy aging, positive aging, productive aging etc.が出されています。 2 社会への影響 1)高齢化の動向 終戦後の1950年、日本の高齢化率(全人口中、65歳以上人口の割合)は4.9%、20人に1人が高齢者でした。その後1975年7.9%、2013年25.1%、4人に1人以上が高齢者です。65歳以上人口(老年人口)は1975年883万7千人から2013年3189万8千人へと増え、65歳以上の単独世帯は1975年61万1千から2013年573万へと9倍以上になりました。日本の高齢化は、高齢化社会として知られるスウェーデンの4倍もの速度で、歴史上前例がありません。 2)寿命 平均的にあと何年生きられるかを示す平均余命は、集団の健康水準を考える上で大切です。生まれたときの平均余命(0歳児平均余命、期待生存年数)が寿命です。寿命の長さよりは質、特に「健康で生きられる寿命」が大切です。 あるレベル以上の健康状態での期待生存年数として「健康寿命」「HALE : health-adjusted life expectancy / healthy life expectancy, at birth」を用います。「あるレベル以上」とは「日常生活動作(ADL)を行う際に障害の無い状態」「日常的に介護を必要とせず、自立した生活ができる状態」です。  健康寿命は、先進諸国の健康目標とされ、健康日本21(国民健康づくり運動)も「健康寿命の延伸」をめざしています。WHOによると2012年現在、日本人の平均寿命は男性80/女性87年、健康寿命は男性72/女性77年です。 3)健康状態  有訴者率(病気やけが等で自覚症状ある者の割合)は国民生活基礎調査(2013年)によると「男20~29、女10~19歳」で最も低く、以後は年齢と共に増加し、65歳以上では男439.9 女486.6(千人対)となります。65歳以上で多い訴えは「腰痛」「手足の関節が痛む」「手足のしびれ」などです。歯の健康づくりは「80歳で20本以上の歯を保つ」を目標に8020運動が推進されています。 4)介護  高齢者では、心身機能低下のために日常生活動作(ADL)に介護を要する者も増加し、2013年度末には全国の介護保険認定者は583万人となりました。介護が必要になる主な原因は、国民生活基礎調査2013年によると要介護者の場合、脳血管疾患(脳卒中) 21.7%、認知症 21.4%、高齢による衰弱 12.6%でした。 5)認知症  認知症は正常だった脳の機能が低下し記憶や思考への影響がみられる病気です。要介護(要支援)認定者中、認知症高齢者数は2010年280万人、65歳以上人口の9.5%、85歳以上だと4人に1人以上、認知症がみられます。 6)受療と医療費  厚生労働省、患者調査2011年、受療率(人口10万人当たり受療患者数):入院では、男女とも最高は90歳以上で男8,909/女9,965、最低の10~14歳に比べ80倍以上、外来では、最高は男80~84歳13,367、女75~79歳13,803でした。一人当たり国民医療費(2011年度)は65歳未満の17万5千円に対し、65歳以上は72万1千円でした。 3 高齢者への社会的対応 1)高齢化に対応した福祉Welfareの歩み 全市民、特に社会的に弱い立場の子供や障害者など、また高齢者に、最小限(minimal level)の幸福と社会的援助を提供する理念が「福祉 Welfare」です。福祉の原型は古く、日本では聖徳太子建立の救済施設「悲田院」8世紀まで遡ります。弱者救済に努力が払われ、恩恵・慈善・措置的性格があります。現在の福祉は、児童福祉法1947年や老人福祉法1963年が定めています。 高齢者への国の福祉戦略には長寿社会対策大綱1986年、高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略(ゴールドプラン)1989年があります。介護は、福祉・保健・医療に共通の重要課題で、2000年には介護保険法ができました。老人福祉法と介護保険法は条文が密接に関連し、福祉と介護が一体として老齢期を支える発想が読み取れます。 2)予防と医療費確保を目指した老人保健の歩み 福祉的な発想で医療費が無料になったら、何が起こるでしょうか。まだ老年人口が少なかった1973年、老人医療費支給制度(無料制度)が始まりました。結果として高齢者の受療と医療費が飛躍的に増大し、無料の維持が難しくなりました。そこで将来の高齢社会への対応を健康面から開始したのが老人保健法1982年です。 老人保健法(1982)は高齢者の医療と医療費の確保を図り、高齢期の疾病予防を保健事業(予防、治療、機能訓練など)として体系化しました。めざしたのは国・都道府県市町村・保険者(サービスを運営提供する社会組織)の3者による老人医療共同負担制度です。1960年代からの胃がん・子宮がん検診は老人保健法の保健事業となり、肺がん・乳がん検診も加わりました。その後、がん検診は1998年に老人保健法から外れ、今は健康増進法の下にあります。 21世紀、更に高齢者が増え、その心身特性や生活をふまえた医療と医療費の確保が求められ、医療制度改革大綱2005年ができました。2006年には老人保健法が高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)へと改正され、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が生まれました。 3)介護保険の誕生 終戦後の1950年、人口ピラミッドは広い裾野を持ち、日本はまだ子供や若者が多い、若い国でした。高齢者は少なく、将来の高齢社会がどのようなものか、皆気づきませんでした。人々の意識が変わり始めたのは1970年代、72年出版で、同年のベストセラー、有吉佐和子著「恍惚の人」の一節を朗読します。 「老人ホームに入れちゃえばいいじゃないか」 耳の奥で銅鑼が鳴ったような気がしたが、昭子は急いで、喋った。 「そうね、そうだわね。じゃあ敏からパパにそう言ってくれない? ママから言うわけにいかないから」 「どうして」 「だってお爺ちゃんはママの舅だもの。ママから言い出すわけにはいかないのよ。お爺ちゃんとママとは他人ですもの。分るでしょ。だから敏から言って頂だい」 「うん」 「どうなの」 「言えばいいんだろ、言うよ」 昭子はちょっと心が虚ろになった具合で、慌てて買い物籠を提げると、茂造から目を放さないように敏にくどいほど頼んで外に出た。 この本が出た当時、介護は家族の責任で、介護の公的サービスは存在しませんでした。当時の老人ホームは、身寄りのない高齢者や、やむを得ない理由で家に居られない高齢者を収容する施設!「お爺さんをホームに入れたい」等と思ったにしても、口に出すことは考えられませんでした。そのような時代に出たこの本は人々に衝撃を与えました。人々は自分を登場人物に重ね合わせて本を読み、家族介護の限界や認知症への関心が高まりました。深刻化する介護の課題に対し、国を挙げての検討が進み、特にドイツの制度を参考に介護保険制度が発案され、介護保険法2000年が施行されました。 4 現在の制度 1)医療 増え続ける後期高齢者(75歳以上)を74歳未満と切り離し、独立した医療保険制度「後期高齢者医療制度」が生まれました。高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)2006年によります。都道府県ごとに保険者=後期高齢者医療広域連合が置かれます。誰でも75歳以上になるとそれまで入っていた保険(国民健康保険、被用者保険)からこの制度に移ります。75歳以上に加え、65~74歳でも保険者が認定した場合は、制度が使えます。医療費は、後期高齢者からの保険料(10%)現役世代の保険料からの支援金(40%)公費(50%)で負担し、受診時の自己負担は費用の1割、現役並み所得者は3割です。 2)福祉 高齢者福祉は老人福祉法1963年によります。発想の中心は「措置」、福祉サービスを行政が措置し、対象者は与えられたものを受け取ることで成り立ちます。しかしこれでは選ぶ自由が無く、競争も生まれず、財政圧迫も生じます。そこで介護保険法が2000年にできた際「それまでの措置の発想:老人福祉法」に「新たな契約の発想:介護保険法」が組み込まれました。現在の高齢者福祉サービスは介護保険法による契約サービス(保険)が中心です。被保険者は介護保険料や自己負担分を支払えば、サービス(在宅福祉/施設福祉)を選べます。 高齢者が福祉サービスを求める場合、介護保険の適用を優先しますが、65歳以上でやむを得ない理由から、介護保険が使えない場合は、同じサービスが「福祉の措置(老人福祉法)」として提供されます。例:介護老人福祉施設と特別養護老人ホームは同一施設ですが、介護保険での入所は「施設との契約」、老人福祉法での入所は「ホームへの措置」と扱いが異なります。 3)介護 [概要]  20世紀後半まで家族の自己責任だった高齢者の介護を、社会の責任で行う画期的な制度が「介護保険」です。介護保険法2000年ができ、社会保険としての介護保険制度が始まりました。保険者は市区町村です。要介護状態の人に対し、能力に応じた自立生活を送れるよう支援します。介護保険サービスの費用は、自己負担(1割)を除いたうち、約半分を公費(税金)で、残りの約半分を被保険者の保険料でまかないます。誰でも満40歳になったら、被保険者として保険料を支払い始めます。利用できる被保険者は第1号と第2号に分かれます。 40から64歳までの人は第2号被保険者です。(介護)保険料は健康保険料と一緒に給与から徴収されます。老化が原因の特定疾病により、要支援・要介護状態になった場合は、介護保険を利用できます。 65歳を越えたら第1号被保険者です。(介護)保険料は年金からの天引きか、納入通知書によって納めます。保険料は市町村ごとに本人の所得に応じて、決められます。要支援状態・要介護状態になったら保険を利用できます。 [判定] まず利用者(被保険者)が市町村窓口に申請します。市町村は利用者宅に調査員を派遣、認定調査表により、利用者の心身の状況を聞取り調査します。続く一次判定では認定調査の結果をコンピュータ分類し、要介護認定等基準時間を推計します。この結果(一次判定)を元に、介護認定審査会が二次判定(最終判定)をしますが、この際は主治医の意見書も必要です。二次判定で介護サービスが不要な場合は「非該当」、必要な場合は「要支援1~2、要介護1~5」の7段階に分れます。 [ケアプランとサービス] 要介護度1~5の場合、段階に応じ、利用者個人ごとに介護サービス計画(ケアプラン)を立て、サービスを選びます。利用者自らがケアプランを作ることもできますが、通常は介護支援専門員(ケアマネージャー)に作成を依頼します。選択可能なサービスとして、施設では介護老人福祉施設・介護老人保健施設などが、居宅では訪問介護・通所介護・短期入所生活介護などが利用できます。 要支援1~2では介護予防(将来の要介護状態の発生予防)の取組みが重視され、介護予防ケアプランを立てた上で、介護予防の諸サービスを選びます。 非該当でも介護予防が重視され、市町村の実情に応じたサービスがあります。 [ケアマネジメント] ケアマネジメントはサービスと人とをつなぎ、介護予防の効果を最適化する考え方、中核機関は地域包括支援センター(2005年~)です。市町村が設置し、保健師・社会福祉士・ケアマネージャーが配置され、高齢者や家族の相談、虐待への対応、ケアマネージャーへの指導助言等を行います。 終りに 我が国は介護保険の創設で常識を変え、超高齢化への社会を挙げた対応を進めてきました。超高齢社会は、高齢者の英知を活かし得る社会でもあります。このマイクロレクチャーは一人の語りが中心ですが、実際の授業では、後半、学生が様々な質問を行い、それに対しボランティアの皆さんが経験や思いを語ります(授業記録:対話から学ぶ公衆衛生学)。この対話型授業を始めた10年前、ボランティアの皆さんはもっと若かったのですが今は主力が60歳を超えました。世代を超えた対話から明日への見通しが生まれます。 文献 Rowe J & Kahn R (1987) Human aging: usual and successful. Science, 237(4811), 143-149. Rowe J & Kahn R (1997) Successful aging. The Gerontologist, 37(4), 433-440. キーワード  加齢現象、退行性・有害性の変化、老年症候群、廃用症候群、サクセスフル・エイジング、通常の老化、成功した老化 社会影響、高齢化率、65歳以上人口の割合、65歳以上人口、老年人口、単独世帯、高齢化、高齢化社会、スウェーデン 寿命、平均余命、0歳児平均余命、期待生存年数、健康寿命、HALE、日常生活動作(ADL)、健康寿命、健康日本21(国民健康づくり運動)、健康寿命の延伸、WHO、健康状態、有訴者率、国民生活基礎調査、腰痛、手足の関節が痛む、手足のしびれ、歯の健康づくり、8020運動 介護、介護保険認定者、国民生活基礎調査、要介護者、脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱、認知症、認知症高齢者数 受療と医療費、患者調査、受療率、一人当たり国民医療費 高齢者への社会的対応、福祉Welfare、悲田院、弱者救済、恩恵・慈善・措置的性格、児童福祉法、老人福祉法、高齢者への国の福祉戦略、長寿社会対策大綱、高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略(ゴールドプラン)介護保険法、老人福祉法  予防と医療費確保、老人医療費支給制度(無料制度)、老人保健法、老人医療共同負担制度、健康増進法、医療制度改革大綱、高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)2006、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)、介護保険、人口ピラミッド、有吉佐和子著「恍惚の人」、介護の公的サービス  保険者=後期高齢者医療広域連合、国民健康保険、被用者保険、後期高齢者からの保険料、現役世代の保険料 介護保険、保険者は市区町村、要介護状態、自己負担、公費(税金)、第1号被保険者、第2号被保険者、要支援状態・要介護状態、認定調査表、コンピュータ分類、要介護認定等基準時間、介護認定審査会、二次判定(最終判定)、主治医意見書  介護サービス計画、介護支援専門員、介護予防、介護予防ケアプラン、ケアマネジメント、地域包括支援センター、保健師・社会福祉士・ケアマネージャー}, title = {高齢者保健}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }