@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000634, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Nov}, note = {video/mp4, application/pdf, みなさん、こんにちは。今回は介入研究 (trial, intervention study) についてお話しします。 介入研究とは これまで横断・症例対照・コホートなど各疫学研究をお話しした際に出て来た要因曝露は、現実社会で、自然の成り行きとして生じていました。そのため、症例対照研究では要因暴露が過去のどの時点で生じたかを突き止めるのは、容易ではありませんでした。コホート研究では要因暴露が生じるまで待ち続けることもあり、研究に長い時間がかかりました。しかし疫学の歴史で登場した高木兼寛のように、研究者が要因曝露を人為的・実験的に操作できるなら、因果の逆転を生じることなく、交絡因子の影響を排除し、厳密に、比較的短期間に、要因曝露と疾病罹患の関係を解明できます。これが「介入研究 (trial, intervention study)」「人為的・実験的に要因曝露を行うコホート研究」です。 介入研究の歴史 旧約聖書の記述 介入研究の考え方が現れたのはとても古く、紀元前に書かれた旧約聖書中のダニエル書には以下が記されています。(ダニエル書1章11〜15節) 11 ダニエルは、侍従長が自分たち四人の世話係に定めた人に言った。 12「どうかわたしたちを十日間試してください。その間、食べる物は野菜だけ、飲む物は水だけにさせてください。 13 その後、わたしたちの顔色と、宮廷の肉類をいただいた少年の顔色をよくお比べになり、その上でお考えどおりにしてください。」 14 世話係はこの願いを聞き入れ、十日間彼らを試した。 15 十日たってみると、彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった。 上述の試みは「健康で美しい若者を育てて、王に仕えさえなさい」という王様(ネブカドネツァル王)の命令に関連して行われたもので、宮廷の肉類など王が好む食物を摂取した若者たちよりも、野菜と水だけを摂取した若者たち(ダニエルを含む)の方が健康になったことを示しています。 ジェームズ・リンドの介入研究 さて初期の介入研究では、介入の有効性を実証するために必要な対照群がありませんでした。 対照群を設定した最初の適切な介入研究はジェームズ・リンドにより1747年に行われました。リンドはスコットランドの医師で、軍医として海軍における衛生の発展に貢献しました。リンドが介入研究を試みたのは、現在ではビタミンCの欠乏が原因だとわかっている壊血病scurvyです。 リンドは既に壊血病が発生していた1隻の船の乗組員に対して、酸性の栄養補助食品の投与を試みました。対象者は既に壊血病にかかっていた12名の船員でそれを2名ずつの6群に分けました。これらの6群12名はすべて同じ食事を摂取し、それに加えて第1群はサイダー、第2群は微量の硫酸、第3群は酢、第4群は海水、第5群はオレンジとレモン、そして最後の第6群は大麦飲料などを摂取しました。この挿絵は第5群でリンドがレモンを投与しているときの様子です。第5群は果物がなくなったために介入が6日目で終了しましたが、その時までに1人の船員は仕事ができるまでになり、もう1人もほとんど回復していました。このほかに第1群のみで介入の効果がわずかに認められました。 介入研究の進め方 1) 仮説の設定と介入対象の選択 介入研究での仮説は「介入が原因、結果がアウトカム」と理解されます。 どう介入するかは介入の対象(患者、健康な個人、地域)によって異なります。 ・患者への介入研究 (clinical trial) 医療機関で介入研究を行う場合、介入方法は薬剤や治療方法です。たとえば介入群には新開発の薬剤A、対照群には以前から使われてきた薬剤Bを投与し、一定期間観察して両群の生存率の差から、新薬(候補)の効果を検証します。こうした介入研究は臨床試験、治験ともいいます。 ・健康な個人への介入研究 (field trial) 一般集団中の健康な個人を対象として疾病予防のために介入研究を行うこともあります。生活習慣の改善やワクチンの接種の効果を介入群と対照群で比較します。 ・地域への介入研究 (community trial, community intervention) たとえば「A市では食生活改善活動を行い、隣のB市では行わない」として、生活習慣病の罹患や有病を比較し、A市の方がより改善すれば、予防活動としての介入の効果があった、と考えます。 2)介入群/対照群の割り付け 介入研究ではまず(研究)協力者を集めた上で、協力者を介入群か対照群かに割り付けます。 ・非無作為割り付け  協力者の希望や研究者の思いつきで、適当に群に分ける(割り付ける)介入研究が非無作為化比較試験 (non-randomized controlled trial: non-RCT) です。群の間に偏りが生じやすい研究方法です。 ・無作為割り付け  希望や思いつきなど人為的な要因の影響を取り除き、統計的に均質な群に分けることが無作為割り付け(randomized allocation)、それを用いた介入研究が無作為化比較試験 (randomized controlled trial: RCT)です。無作為化により、各群で既知の交絡因子の分布を均等にでき、また未知の交絡因子の影響を少なくすることができます。 無作為化を実現するには、乱数発生などの方法が必要です。 ある1人の協力者を介入群と対照群のどちらに振り分けるかにつき、簡単な無作為化としては、コインを投げ、表か裏かで、割付けの群を決めることが考えられます。 3)介入過程の盲検化(またはマスキング) 以上の無作為化により、人為的な要因を排除して、対象者の群分けができました。しかしこれで無作為化は完璧!ではありません。群分けの後、対象者は介入を受けるか受けないか(放置されるなど)いずれかの取り扱いを受けます。自分がどちらの取り扱いを受けているかを知ってしまうと、それが参加者の判断や行動や心理に影響を与え、最後には観察結果にも影響を与える恐れがあります。これを防ぐために「どちらの群か、どの治療法か」などを分からなくする「盲検化blinding/マスキングmasking」が行われます。 ・一重盲検法  介入群には新薬を、対照群には「薬効の無い物質」を投与する際、本物の新薬と見分けがつかない見かけ・重さ・包装の偽薬(プラシーボplacebo)を用いると、参加者は自分がどちらの群に入ったのかがわかりません。これが一重盲検法(single-blind, single-masking)法です。 ・二重盲検法 参加者だけではなく、研究者にも群の違いがわからないようにするのが二重盲検法(double blind, double masking)です。 4) 介入と追跡と効果判定 介入研究で、参加者を追跡し、介入群と対照群の疾病罹患や健康状態の差を観察する過程は、コホート研究の場合と同じです。      疾病(+) 疾病(-)  合計 介入群    a b a+b 対照群 c d c+d 合計 a+c b+d a+b+c+d 介入群の累積罹患率 = a/(a+b) 対照群の累積罹患率 = c/(c+d) 介入研究の考え方はコホート研究と似ており、上記の四分表による整理も行われます。しかし違いもあります。 コホート研究では要因への曝露によって疾病罹患がどのくらい高くなるか、疾病の危険度の違いに注目します。一方、医療機関で行う介入研究では新薬で病状がどのくらい改善するか、地域の介入研究では疾病予防プログラムでどのくらい生活習慣病の状況が改善するか、などを観察します。つまり介入研究では原因を究明し危険度を比べるよりも、段階的な改善に注目します。 そのため介入研究では四分表で危険度を計算するよりも、介入の期間が変化すると累積罹患率がどの程度改善するかを、グラフで表して評価することがよく行われます。また予防医学的な介入研究では疾病の罹患率の変化を観察する一方、様々な危険因子の変化の追跡も欠かせません。一例として高血圧への生活指導を介入として行う場合、介入した地域で疾病(たとえば脳卒中)の罹患が下がることも大切ですが、「血圧が下がる、喫煙率や飲酒率が下がる、定期的に運動する人の割合が増える」など危険因子の変化を追跡することも大切です。 介入研究の演習 介入研究は専門性の高い研究方法です。しかし学生の皆さんでも、部活や勉強の仕方を実験的に操作できれば介入研究を行えます。 たとえば体育大会の前一カ月間の部活の練習メニューをAとBの二種類作成し、部員をいずれか一方のメニューに割り付ければ、練習AとBを比較する介入研究ができます。 このマイクロレクチャ-を用いても介入研究は可能です。皆さんを「動画で学習するA群」と「テキストで学習するB群」に割り付ければ介入研究を行えます。 介入研究では介入群だけでなく、介入を受けない対照群の存在が大切ですが、研究者が意図的に2群への割り付けをした場合、交絡因子(過去の成績のように、練習や勉強、あるいはその結果に関連する要因)の影響を否定できず、研究に偏り(バイアス)が生じます。そこで割り付けの無作為化(ランダム化)が必要です。 無作為化を伴うRCTは難しいことではありません。サイコロ・コイン・トランプなどがあれば、すぐにランダムな状態を生み出せます。昔は乱数表を使っていました。いまはパソコンでもスマホでも簡単に疑似乱数を発生させられます。皆さんも試してみてください。 研究参加者への配慮 最後の話題は研究参加者への倫理的配慮です。介入研究は、人を対象にした一種の人体実験です。多くの介入研究は、研究にボランティア的に参加してもらえる人々を集めるところから始まります。その際の倫理配慮、特にインフォームド・コンセントと同意撤回の自由は、参加者を集める前提として重要です。 インフォームド・コンセント 患者さんや健康な人々にボランティアとして参加をお願いして行う介入研究では、まず研究の目的、実施内容、参加者への予想される利益や不利益など重要事項を説明(inform)する必要があります。参加者に十分な説明を行い、出てくる疑問にすべて答えた後、参加者本人がよく理解し納得した上で、参加者自身の自由な意思に基づいて研究に同意(consent)してもらうことがinformed consent「十分な説明を受けた上での同意」です。 インフォームド・アセント 参加者が子供の場合には、保護者からインフォームド・コンセントを得るだけでなく、子供へも分かりやすい言葉で説明し同意をもらう必要があり、これをインフォームド・アセントinformed assentといいます。 同意撤回の自由 参加者が介入研究への参加をいちど同意した後でも、何らかの事情で参加を取りやめたくなった場合には、介入開始の前か後かを問わず、また参加者本人に何の不利益もなく、いつでも同意を撤回し、研究への参加を中止できることが大切です。これが「同意撤回の自由」です。 エビデンス・レベル 介入研究の特徴として、最後にエビデンスレベルについてお話しします。 すべての疫学研究・臨床研究は、疾病の予防・治療・看護や介護・公衆衛生活動を行う上で役立つ何らかのエビデンス(根拠)の情報をもたらします。様々な疫学研究・臨床研究の中でも介入研究、特にRCTは、無作為化や盲検化などで交絡要因を厳密に制御して行う一緒の人体実験であり、そこから得られる根拠はエビデンス・レベルが高く評価されます。 一般的な疫学研究/臨床研究のエビデンス・レベルは最高の1から最低の6まで6段階に分類され、レベル1には「大規模RCT」「RCTで行われたいくつもの研究論文を系統的に評価した系統的レビュー:systematic review」「複数の研究結果を統合し、より高い見地から統計的に分析したメタアナリシス:meta-analysis」などが含まれます。以下エビデンス・レベルの高い順に「RCTやコホート研究」、「症例対照研究」、「前後比較の研究、対照群を伴わない観察研究」、「事例研究・症例報告」などと続き、最もエビデンスレベルが低いレベル6には「専門家個人の意見」が対応します。 (守山正樹)}, title = {介入研究}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }