@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000633, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Nov}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。今回はコホート研究についてお話しします。 1 コホート研究とは コホート研究の概要 コホート研究は仮説的原因・要因曝露に従って2群の観察集団を設定した後、追跡する研究方法です。「健康な人々、病気にかかっていない人々」を対象として、「何らかの要因(原因)に曝露されている集団:曝露群」と「曝露されていない集団:非曝露群”を設定し、10年20年と追跡して、疾病や死亡の発生を観察します。 コホートという言葉の歴史 コホートという言葉に親しむために、その歴史的な使い方をお話しします。Cohort(コホート、コホルス)とは古代ローマにおいて、重装歩兵からなる軍団の編成単位を指します。現代の歩兵大隊に相当し、1コホートの人数は450から600人ほどでした。整然と組まれたコホートの陣形と統率された攻撃がローマ軍の強さだったとされます。 コホート研究の対象 コホート研究には、地域住民を対象とするもの、特定の職業を持つ人々(医師や看護師など)や特定の団体(企業、軍隊、大学など)に所属する人々を対象とするものなどがあります。 2 コホート研究の進め方 コホート研究の中でも有名なフラミンガム研究(the Framingham study)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州、ボストン郊外にある町、フラミンガム(人口2万8千人)で1948年に始まりました。フラミンガムスタディーを例にコホート研究の進め方をお話しします。 1)研究仮説の設定 疫学研究、中でも曝露要因と疾病罹患との関係を探索する症例対照研究やコホート研究などの分析的研究では仮説の設定が大切です。 フラミンガムでは疾病としては冠動脈疾患、曝露要因としては肥満度や喫煙を始めとする生活関連の危険因子が注目されました。 2)対象集団の選定 コホート研究では、最初に健康だった人々が、様々な要因への曝露によって、徐々に疾病に罹患する様子を長期にわたって追跡し観察します。コホート研究の場としてフラミンガムが選ばれた理由としては、住民の転出転入が少なく追跡しやすい、以前から調査に協力的である、地域に病院があり疾病の発生を把握しやすい、などがあります。 3) ベースライン調査による曝露群と非曝露群の設定 コホート研究で始めに、参加者の健康や生活習慣を調べるのがベースライン調査です。ベースライン調査の前提として大切なのは、参加者を健康な人々、少なくとも研究対象である疾病に罹患していない人々に限ることです。そしてベースライン調査では危険因子(例えば喫煙)への曝露の有無を調べます。ベースライン調査の結果、参加者は曝露群(例えば喫煙者群)と非曝露群(例えば非喫煙者群)に分けられます。 フラミンガム研究の場合は、29から69歳の住民の2/3が研究に参加しました。 4) 追跡すべき人数と追跡期間のデザイン コホート研究では疾病のない状態、例えば肺がんにかかっていない若者を観察対象として、喫煙群と非喫煙群を設定し、追跡します。両群とも追跡開始時点では健康です。喫煙群にいても、すぐに肺がんになるわけではなく5年10年と長期の追跡が必要です。さらに子供たちを参加者としてコホート研究を行うのであれば、調査開始時点で曝露自体がまだ発生していない可能性もあります。例えば小学生を対象に肺ガンのコホート研究を始めた場合、対象者の一部が実際にタバコを吸い始めるのは研究開始から10年後?、その後、肺がんが発生するのはさらに10から20年後でしょうか。長〜い追跡期間が必要です。またある程度の疾病発生数を見込むためには、十分な数の対象者が必要です。フラミンガムの場合は「ほぼ6,500人を20年間追跡することで、十分な冠動脈疾患の発生が見込める」との予測に基づいて調査が開始されました。 5) 追跡と観察 ベースライン調査後、対象者は長年にわたって追跡され、定期的な調査票の郵送、面接、検査などにより、疾病の発生がチェックされます。対象者が死亡した場合には、研究対象の疾病(例えば肺がん)で死亡したかどうかが死亡診断書によりチェックされます。 フラミンガムの場合は結局2年ごとに追跡調査が行われ、最終的に30年以上もの追跡がなされ、冠動脈疾患をもたらす曝露要因として、血清脂質値、血圧、肥満度、喫煙、糖尿病の有無などが明らかにされました。 6) 四分表による結果の整理 コホート研究で追跡してきた結果は、すでにお馴染みの4分表によって整理することができます。      疾病(+) 疾病(-)  合計 曝露群    a b a+b 非曝露群 c d c+d 合計 a+c b+d a+b+c+d 曝露群の累積罹患率=a/(a+b) 非曝露群の累積罹患率=c/(c+d) 相対危険度=(曝露群の累積罹患率)/(非曝露群の累積罹患率) 寄与危険度=(曝露群の累積罹患率)ー(非曝露群の累積罹患率) 3 コホート研究の演習 コホート研究は症例対照研究に比べ、長期間の追跡が必要であり、この講義室ですぐに結果を出すわけにはいきません。しかし学生の皆さんでも、同級生をコホートとして、同窓会名簿などを活用し、卒後10年目ごとに追跡調査を繰り返すコホート研究であれば、実行可能です。看護師や医師など医療従事者は医学研究に協力的なことが多く、海外では医療従事者をベースにしたコホート研究が数多く行われています。 皆さんもコホート研究を目指し、学生時の何らかの生活習慣を要因曝露と仮定し、その結果、卒後10年20年30年目に何らかの疾病が起こるとして、仮説を考え、矢印で表現してみましょう。 “趣味が少なく、勉強づけの生活” → → “認知症発症” “高脂肪食の摂取” → → “虚血性心疾患発症” 上記の仮説によってコホート研究を行う場合、卒業時のベースライン調査では要因曝露として「趣味の有無、勉強の仕方、食事内容」などを調べます。また卒後10年目ごとに行う追跡調査では疾病罹患として「物忘れが始まった、認知症と診断された」「労作時に胸痛を感じた、虚血性心疾患と診断された」などを調べることになるでしょう。 卒業時のベースライン調査で、趣味が豊かな人が50人、無趣味な人が50人いたとします。30年後の追跡調査で、趣味豊か群からは物忘れ者が5人、無趣味群からは物忘れ者が15人でました。            物忘れ(+) 物忘れ(-)  合計 曝露群(無趣味群)    15 35 50 非曝露群(趣味豊か群) 5 45 50 合計 20 80 100 これより、物忘れの累積罹患率は、 無趣味群で15/50、趣味豊か群で5/50 相対危険度 = (15/50)/(5/50) =3 寄与危険度 = (15/50) - (5/50) = 10/50 = 0.2 と計算されます。 4 四分表で出来ること 既におなじみの四分表ですが、四分表で出来ることは、疫学研究の種類によって異なります。 横断研究と四分表 横断研究では、因果関係の仮説のコメントに留まり、因果関係の検証はできません。 症例対照研究と四分表 症例対照研究では四分表からオッズやオッズ比が計算できました。オッズ比は「相対危険度の近似値」と位置づけられます。オッズ比の高低によって、因果関係の仮説をある程度検証することができます。 コホート研究と四分表 そして今回のコホート研究。これまでにお話ししてきた疫学研究法の中で唯一コホート研究だけが、曝露群や非曝露群について、罹患率や死亡率を調査できる研究方法です。そして相対危険度や寄与危険度を求めることができます。これらの値を用いて因果関係の仮説の検証がなされます。 補足: 症例対照研究ではなぜ相対危険度が計算できないか? 症例対照研究では「二つの罹患率の比」または「二つの累積罹患率の比」として求める相対危険度そのものは計算できません。なぜか?といえば、罹患率や累積罹患率を求めるためには、まず観察集団を設定し、その集団を追跡して疾病の新規発生数を数える(または累積する)ことが必要です。しかし症例対照研究では、研究者はすでに存在する症例とそれにマッチさせて対照を集めるだけで、観察集団を設定するわけではなく、「疾病の新規発生数」も分かリません。一方、コホート研究はその双方(①観察集団設定、②疾病新規発生の把握)を実現する研究方法であり、罹患率や累積罹患率を求められます。 5 回顧的コホート研究 コホート研究は、疾病発生の前に曝露の有無を調査しているため、因果関係の判定が行えるエビデンスレベルの高い研究方法です。その一方、疾病発生まで5年10年と追跡時間を要するため、時間・労力・費用負担が大きいことが短所とされています。この短所を克服するために、危険因子の曝露データが過去にさかのぼって入手できるときに、そのデータを活用して、追跡期間を短くすることが工夫されています。職業病等に関する研究で、過去において危険な物質に曝露した従業員の勤務場所や勤務時間のデータが保存されている場合があり、これらを活用することで、追跡期間の短縮がなされます。このように過去のデータを利用することから、Retrospective cohort study, 回顧的コホート研究、後ろ向きコホート研究などと呼ばれます。 6 わが国のコホート研究 わが国でも様々なコホート研究が行われています。 原爆被爆者における放射線影響調査 広島と長崎の原子爆弾に被爆した生存者を対象に原爆被爆の後障害影響調査が1947年以来行われています。その一つである寿命調査では、1950年の国勢調査資料に基づいて広島市と長崎市在住の原爆被爆者(近距離、遠距離)および非被爆者よりなる約12万人ののコホートが設定され、被爆者の寿命や死因を非被爆対照群と比較する調査が行われています。 久山町研究 久山町研究、「喫煙や食習慣などの生活習慣とがん死亡などの関連を検討するための大規模計画調査」は、福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象にしたコホート研究です。脳卒中、心血管疾患などに注目し、1961年から九州大学により実施されています。 その他、JPHC Study(厚生労働省研究班による多目的コホート研究)、NIPPON DATAなど、様々なコホート研究が行われています。 (守山正樹)}, title = {コホート研究}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }