@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000627, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Oct}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。今回は疫学の論理の中心、原因と結果の関係(関連)、因果関係についてお話しします。 1 因果関係とは 因果関係とは何か。因果関係とは、原因と結果の関係です。 Aが原因で結果としてBが生じるという関係は、AとBを矢印でつないで表現できます。グラフに描くこともできます。横軸にA、縦軸にBを取り、Aが増えるとBも増える、などと表現できます。 これまで学んだ例で言えば「下水で汚染された水が原因でコレラが起きる」「白米を中心の食事で脚気が起きる」「手洗いをしないような不衛生な病院環境で、入院患者が亡くなる」などです。 2因果関係の歴史的背景 科学的な因果関係の考え方は、疫学だけでなく現代の生活に根付いています。しかし、人類は昔からこのように論理的に考えていたわけではありません。歴史を振り返り、論理的な考え方がどう生まれたかを考察します。 アリストテレスの4原因説 西洋では原因と結果の考え方は、紀元前から考察されてきました。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、自然学は現象についてその4種類の原因(希: αἴτιον、アイティオン)を検討すべきであると考えました。 アリストテレスのいう4種の原因とは、質料因(ὕλη, hyle, )、形相因(εἶδος, eidos)、作用因(始動因、起動因ともいう)(αρχή, arche,)、目的因(τέλος, telos)の4つです。 八世紀の日本の因果応報 図は八世紀の日本で描かれた『過去現在因果経』、因果応報の考えを表しています。因 は「因縁・原因」、果は「果報 ・結果 ・報い」です。当時の因と果を結ぶ考え方は現代のような科学的論理ではなく「応報」、仏教の考え方で「良いことをすると報われる」を意味します。 科学的疫学が生まれる前後の考え方 ミアズマ説 スノーのコレラ流行に関する研究については既にお話ししました。スノーの時代まではミアズマ説があり「ミアズマ・悪い気」がコレラの原因となるとしていました。 コンタギオン説 コレラやペーストが流行していた時代、ミアズマ説よりも後に登場した考え方の1つがコンタギオン説です。イタリアの科学者、ジローラモ・フラカストロが1546年に提唱しました。コンタギオン説は、ミアズマでは説明のつかない「病気を媒介する何か」の存在を仮定した考え方で、接触伝染説とも言われます。 3 病原体発見と因果関係 以上述べたように因果関係の考え方は、紀元前から発展して来ました。最後のコンタギオン説は、細菌やウイルスなど「疾病を媒介する微生物の存在」を予見する考え方です。そして、ついに病原体が発見され、因果関係の捉え方は病原体を組み込んだ具体的なものになりました。 コッホによる細菌の発見 ロベルト・コッホは、ドイツの医師、細菌学者です。ルイ・パスツールとともに「近代細菌学の開祖」とされます。コッホは1876年、炭疽菌の純粋培養に成功し、炭疽の病原体であることを証明し、1882年には結核菌を発見しました。1883年にはインドでコレラ菌を発見しています。 コッホの原則とは 感染症の病原体を特定する因果関係の指針として、コッホは後の人が「コッホの原則」とよぶ以下の項目を重視しました。箇条書きにしたのは後の研究者であり、人によって表現に違いがあります。 コッホの原則 原則1. ある一定の病気には一定の微生物が見出される 原則2. その微生物を分離できる 原則3. 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせる 原則4. そしてその病巣部から同じ微生物が分離される。 4 コッホ以後の因果関係の考え方 さて病原体の発見で感染症に至る因果関係は詳細に解明され始めました。他の疾病でも、ガンでは発がん物質、公害病では環境汚染物質など、因果関係は具体的になってきました。しかし感染症の場合、たとえば結核菌だけで結核が発症するわけではありません。タバコの煙だけで肺ガン発症が全て説明できるわけでもありません。現実の因果関係には、特定の因子・事象だけではなく、様々な因子・事象が関わっています。 5 因果関係を考える上での現在の指針 では様々な因子が関わる因果関係において「ある特定の因子Aが原因となって、疾病Bが起きる」と考えるためには、どのような指針や条件が大切でしょうか。 現在では、喫煙と肺がんの研究で知られるBradford Hillが提唱した、9条件が要因と疾病の因果関係を考える指針となっています。以下Hillの主な条件について説明します。 a 時間的関係 temporal relationship: 原因→結果の順になっているか。疾病の発生前に暴露していることを示します。原因と考えられる事象(曝露)は、結果と考えられる事象(疾病発生)よりも先に起こらなければなりません。 b 関連の強固性 strength: 関連性が強ければ強いほど、“Aが無いときのBの出現率”に比べて“AがあったときのBの出現率”が高ければ高いほど、その関連が因果関係である可能性が高くなります。 c 量反応関係 dose-response relationship: 原因と考えられる事象の量(暴露量)が増加するにつれて、結果(疾病の発生)も増加すると言う関係です。 d 関連の一致性 consistency: 異なる“集団・地域・国・時代”でも同様の関連性が認められるか/関連性が一致するか。   e 関連の特異性 specificity: 「原因のある所に結果がある:結果のある所に原因がある」が、常に成立する必要があります。原因と結果との間に、必要条件と十分条件の両方が成立していることを示します。 f 関連の整合性 coherence: これまでに確立されている知識や理論と整合すること、矛盾しないこと。  因果関係の判定基準はこの他にも多くのものが知られており、教科書によっても表現が異なります。Bradford Hillによる1965年の判定基準“The Environment and Disease: Association or Causation?”には、上記6項目に加え、以下が含まれています。 ・Plausibility:その関連が妥当性、説得性を持っていること。 ・Experiment:実験的に根拠を示す。 ・Analogy:類似の要因を考慮できること。 (守山正樹)}, title = {因果関係の考え方 ; コッホの原則 ; Hillの条件}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }