@misc{oai:jrckicn.repo.nii.ac.jp:00000624, author = {MORIYAMA, Masaki and 守山, 正樹}, month = {Oct}, note = {video/mp4, application/pdf, 皆さんこんにちは。これから疫学について学びます。 1 疫学の定義 日本疫学会によれば、疫学とは「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」(1996年)です。  このほかにも定義があります。定義を覚える必要はありません。しかし、疫学のことが少し分かってから改めて定義を読み直してみると、疫学の意味をよりはっきり理解することができます。以下にも定義を示しておきますので、参考にしてください。 2 流行について 疫学的に考えるきっかけとなる現象が「流行」です。流行という言葉は、昔は伝染病の急性発生に限って用いられました。歴史は古く、古代ギリシャのヒポクラテスの著書には「流行Epidemics」との題名のものがあります。現在は「病気が普通の状態よりも余計にある状態」を指します。 流行は、ある事象(健康状態や疾病)の集積(集中して存在すること)を示します。その事象が“時間/空間/集団の次元”で偶然に起こるよりも頻繁に起こるのが「流行」です。時間的な集積で思い浮かぶのはインフルエンザなど急性感染症の流行です。 空間的な集積として、一昨年、2014年8月には西アフリカ4カ国でのエボラ出血熱の感染拡大が問題となっていました。 今年、2016年はオリンピックが行われたブラジルなど南アメリカ大陸でのジカ熱の流行が話題になっています。特定の集団内に限定して発生するという集積もあります。集積を知る事は、疾病の原因究明や対策上、重要です。 流行の存在は、非流行期の病気の度数分布を知り、それとの比較で分かります。なぜ流行が起きたか、その要因(原因または関わりが深い出来事)を探り、流行をくいとめることが大切です。感染症のように多くの人が罹患し、誰にも病気であることが分かり、発生も短期間の場合は分かりやすい流行です。しかし急性流行でも、見慣れない形の場合は、当初、経験が少なく、流行が見過ごされた場合もあります。 歴史的に有名なのは1952年ロンドンの濃霧のときの、死亡数上昇です。濃霧の健康影響はすぐには気付かれず、後で、その期間の死亡数を算出した結果、はじめて4千人以上の死亡者が出たことが分かりました。 ある集団で、ある疾病の度数が異常に低い場合も、流行の要因(原因)解明に役立ちます。有名なのは19世紀、ジョン・スノー John Snowによるコレラの集積の観察です。 スノーはコレラの流行地の真ん中に、コレラの罹患率が非常に低い2群の人々、ある醸造工場の労働者とある授産所の居住者、を見出しました。この人々は、周囲の人々のようには一般の水道からの給水を受けていませんでした。この観察から「水道がこの流行に関係がある」との確信が強まりました。別な歴史的例として「子宮頸がんが修道女には実際上皆無に近い」との観察が知られています。こうした観察は、病因仮説の設定に影響を与えました。 3 疫学の三要素(時間・場所・人)とヒポクラテス 疫学的に考えを進める際に大切なのは「“疾病/健康状態”と“それを囲む環境”」を「観察し/計量する(数える)」ことです。 観察や計量の際、疫学の3要素として重視されるのが「時間・場所・人」です。 これら三要素を重視し、疾病と人の環境とを結びつける発想は、今から2400年前、ギリシャ時代のヒポクラテスによって示されています。以下、ヒポクラテスの著書「空気、水、場所: On Airs, Waters and Places」から引用します。  「正しく医を営むために行うべきこと:まず第一に年ごとの季節とその影響を考えよ。風、寒、暑、特に何処にもあるもの、地方特有のものを考えよ。はじめての町では、その方位、風向き、日出を考えよ。風、寒、暑は、南北により、日出、日没により異なるものなり。用いる水には細心の注意を払うべし・・。 そして、そこに住む人々の生活を見よ。いずれをなりわいとするか、多飲、暴食を好むか、怠惰か、勤勉かを・・」 ヒポクラテスの記述は観察中心で、まだ現象を数えるには至っていません。「疫学は現象を数える段階が重要だが、ヒポクラテスはそこに達していなかった」との指摘もあります。しかし彼の正確な観察は疫学の原点として重要です。 4 論理的に考えることの大切さとミアズマ説 疫学で次に大切なのは、原因と結果に関する仮説を立て、論理的に考えることです。原因不明の恐ろしい病気であっても、ただ恐ろしがるだけでなく、原因があるはずだと考え、原因を仮定することから、疫学の論理が始まります。 この点で興味深いのはミアズマ説です。 ミアズマは漢字で書くと「瘴気(しょうき)」、ギリシャ語では「不純物、汚染」を意味します。ミアズマ説は現在は否定された考え方ですが、論理的であり、疫学の発展に貢献しました。ミアズマ説が生まれたのは2,000年以上前です。世界の多くの地域で「悪霊が病気を引き起こす」などの迷信が信じられた時代において、古代のギリシャ/インド/中国などでミアズマ説が考え出されたとされ、ヒポクラテスもこの考えを採用していました。ミアズマ説が興味深いのは、悪霊などの迷信ではなく、「悪い空気」という物質を仮定したことです。 問題: ・疫学とは何ですか。どう役立ちますか? ・流行とはどんな状態ですか。なぜ流行と分かりますか? ・疫学の3要素とは何ですか? ・ヒポクラテスの観察の視点で、あなたの周囲の環境を観察すると、どんなことが言えますか? ・ミアズマ説とは何ですか。現代でも、ミアズマ説を役立てることができますか? (守山正樹)}, title = {疫学の出発点 : 流行, 観察, 論理}, year = {2016}, yomi = {モリヤマ, マサキ} }