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患者さんの病気について診断がつき、そのままだと病気はどのように進行するかも予想できた後、次に来る質問はどんな治療・処置をするかです。\n 病気への処置については、疫学1でもいくつもの例が出てきました。まだ病気の原因が解明されなかった時代、感染症の病原体すら発見が進んでなかった時代にも、ジェームズリンドによる壊血病へのレモンの投与、高木兼寛による脚気への玄米食、などが実験的に行われ、効果が検証されました。\n 医学が進歩し様々な角度から病態が解明されるにつれて、細胞レベルや分子レベルでの治療効果を期待する治療も増えています。\n 患者さんに対する治療効果を臨床医が丁寧に観察した結果、特定の目的で投与した薬剤(例えばパーキンソン病患者が発症したインフルエンザに対して投与されたアマンタジン) が、予想しなかった治療効果(パーキンソン患者の神経症状改善)を持つことが発見された例もあります。\n 治療法の効果を測る方法としては、疫学Ⅰで学んだ介入研究の考え方を用います。しかし介入研究・臨床試験を行う研究者の視点と、患者さんの疾病を治療する臨床医の視点は同じではありません。たとえば薬の効果を試験する場合には、プラセボ効果はベースラインの上積として扱われ、介入群と比較されます。しかし臨床医にとっては治療効果が上がることが大切で、プラセボ効果も患者の治療を助けていると理解されます。\n\n8 Prevention 予防\n\n 予防は公衆衛生活動の中心といえる大切なことです。では予防しきれずに病気になり、あるいは病気を疑って検査を受けたり受診したりする人々に対しては、もう予防の段階ではなく、治療に専念すれば良いのでしょうか。特に臨床医や看護職の場合は、患者さんのケアと疾病の治療に注意が集中しがちです。しかし患者さんは治療だけを望んでいる\nわけではありません。病気になり、治療の段階になる前に、できれば病気を発見してほしいと思っています。病気になってしまったとしても、それ以上悪くならないように、病気の進行が止まること、病気から回復することを望んでいます。このような患者さんの立場を考えた場合、臨床医や臨床の看護職にとっても、また臨床疫学の項目としても、予防は大切なことです。\n では臨床的な状況も視野にいれ、改めて予防を定義したらどうなるでしょうか。皆さんはすでに保健統計学、疾病対策と評価の項で、三段階でとらえた予防の考え方を学んでいます。\n ・1次予防: 疾病の発生を防ぐ。喫煙、食生活、運動などの生活習慣の改善を中心とし罹患率の低下を目指す。\n ・2次予防: 疾病の進展を防ぐ。早期発見・早期治療を基本とし、死亡率の低下を目指す。\n ・3次予防: 疾病が進行した患者に対して、疾病の悪化や再発を防ぎ、リハビリテーションにより社会復帰を促進する。\n 以上3段階の予防を考えたとき、どの段階でも対象者の健康や疾病の状態の正確な把握が大切で、検査値を用いて問題のある人とない人を分けていく考え方は、すでに学んでいます。\n どの段階かを見極めた上で、現状に働きかける上では治療Treatmentの考え方が、また先を考える上では予後や予測の考え方が大切です。\n\n9 Chance 偶然\n\n医療者は、現実の臨床や研究の場面で出会う出来事を観察し、経験的に学ぶことが大切です。しかし観察したことが全て確実とはいえず、経験的に学ぼうとする努力が報いられるとは限りません。観察結果を不確実にする2種類の誤差として\n・「一定の方向性を有する偏り:バイアス、系統誤差、systematic error」と\n・「方向性の無い偏り:チャンス、偶然誤差, random error」があります。\n 系統的な偏り・誤差であるバイアス(systematic error) を減らすにはどうしたら良いでしょうか。自ら疫学研究をデザインする場合には、介入研究の項で学んだ無作為割り付け、一重盲検法、二重盲検法などの方法を用いることで、バイアスを避けることは可能です。\n では方向性の無い偏り、偶然誤差を減らすにはどうしたら良いでしょうか。偶然誤差、random errorはすべての観察に存在します。偶然誤差を最小限にすることは可能ですが、それを完全に避けることはできません。 \n\n10 Studying cases 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症例報告の場合の10名程度よりも、より多くの同様の症状を示す患者さんを見出し、症例数を20例、50例、100例と増やせるなら、量的調査が可能になります。患者調査として、疾病について量的データを集められると、その患者さんの集団としての特徴を、保健統計学を適用して示すこともできます。こうした患者調査はある1時点で行われ、疫学で学んだ横断調査に相当します。\n\n3)症例対照研究\nさて、患者調査は症例報告よりも疾病の集団的な特徴を明らかにすることができます。しかし幾ら症例数を増やしても、患者調査だけでは、因果関係の仮説を証明することは出来ません。対照群が設定されていないからです。患者群だけでなく対照群を設定する近代的な症例対照研究の出発点は1926年にJanet Lane-Clayponが行った乳がんの研究と言われています。\n\n11 Cause 原因\n\n私たちが行う日常的な医療や看護に関連した行為は、その前提として原因と結果の考え方「因果関係」を用いています。\n 例えば患者さんの体温を測るのはなぜでしょうか。体温が上昇することから、原因として感染症を始め多くの疾患の存在を推定することができるからです。\n 血圧を測るのはなぜでしょうか。高血圧が患者さんの健康に大きく関連し、高血圧を発見し治療することで、心疾患や脳血管疾患の危険を下げることができます。\n 手を洗うのはなぜでしょうか。特に外科では手術場に入る前に念入りに手を洗います。これは医療者の手に病原性微生物が付着している危険性を下げるためです。\n このような原因と結果の関係は、昔から知られていたわけではありません。感染症の病原体を特定する因果関係の指針として「コッホの原則」が確立されたのは19世紀末、また生活習慣病も視野にいれた因果関係の指針「Bradford Hillの9条件」が出来たのは20世紀後半です。\n 日々の医療や看護の現場に存在する「原因と結果に関連した知見」がBradford Hillの9条件のどれに対応するか、またその知見(仮説)を立証または反証するための疫学研究のデザインは何かを、まとめて表したのがこの図です。\n\n さて前回と今回の二回で、臨床疫学の考え方を整理しました。次回の授業からはエビデンスについて、お話します。\n\n参考文献:\nFletcher, Robert H. 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臨床疫学の考え方 : 後編
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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動画 (223.2 MB)
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テキスト (413.4 kB)
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Item type | 教材 / learning material(1) | |||||
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公開日 | 2019-12-03 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 臨床疫学の考え方 : 後編 | |||||
タイトルのヨミ | ||||||
その他のタイトル | リンショウ エキガク ノ カンガエカタ : コウヘン | |||||
言語 | ||||||
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主題 | 臨床疫学 | |||||
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主題 | cause and result | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | learning object | |||||
作成者 |
守山, 正樹
× 守山, 正樹 |
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内容記述 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 皆さん、こんにちは。 今回のテーマは前回に引き続き「臨床疫学」です。前回は臨床疫学の前半として「データ・診断・リスク」などを取り上げました。今回は「予後、治療、予防」などをお話しします。 6 Prognosis 予後 予後(prognosis)は疾病が発症してから後の経過の予測です。 人々は病気になると、それから先について、いろいろなことを心配します。「この病気はとても危険ですか?」「 私は死ぬかもしれないのですか?」「 現在の仕事や活動を私はどのくらい続けられますか?」 これらの質問にどう答えたらよいでしょうか。 こうした質問に答えていくには、追跡的な視点が大切で、疾病の自然史、臨床経過などの言葉が用いられます。 疾病の自然史 natural history of disease: 医療の介入がない状態での疾病の予後が、疾病の自然史です。医療水準が高い国でも、疾病の存在が気づかれず、医療的な介入がないまま、疾病が進行することは、あり得ます。 臨床経過 clinical course: 疾病に医療的な介入が行われ始めた後の疾病の予後が、臨床経過です。 前回risk factorについてお話しましたが、risk factorの考え方を予後に適用し、予後に影響を与える因子をprognostic factorということもあります。この図では急性心筋梗塞acute myocardial infarctionについて、risk factorとprognostic factorとを対比的に示しています。 人々を追跡する研究の考え方については、すでに疫学Ⅰ、コホート研究の項でもお話しました。 コホート研究の考え方で予後を追跡する場合、追跡を開始する時点がゼロ・タイム(zero time)です。予後を示す指標としては、生存率などが用いられます。ゼロ・タイムからの時間の経過にしたがって生存率が変化する様子を捉えるために、グラフが用いられます。 7 Treatment 治療法・処置 患者さんの病気について診断がつき、そのままだと病気はどのように進行するかも予想できた後、次に来る質問はどんな治療・処置をするかです。 病気への処置については、疫学1でもいくつもの例が出てきました。まだ病気の原因が解明されなかった時代、感染症の病原体すら発見が進んでなかった時代にも、ジェームズリンドによる壊血病へのレモンの投与、高木兼寛による脚気への玄米食、などが実験的に行われ、効果が検証されました。 医学が進歩し様々な角度から病態が解明されるにつれて、細胞レベルや分子レベルでの治療効果を期待する治療も増えています。 患者さんに対する治療効果を臨床医が丁寧に観察した結果、特定の目的で投与した薬剤(例えばパーキンソン病患者が発症したインフルエンザに対して投与されたアマンタジン) が、予想しなかった治療効果(パーキンソン患者の神経症状改善)を持つことが発見された例もあります。 治療法の効果を測る方法としては、疫学Ⅰで学んだ介入研究の考え方を用います。しかし介入研究・臨床試験を行う研究者の視点と、患者さんの疾病を治療する臨床医の視点は同じではありません。たとえば薬の効果を試験する場合には、プラセボ効果はベースラインの上積として扱われ、介入群と比較されます。しかし臨床医にとっては治療効果が上がることが大切で、プラセボ効果も患者の治療を助けていると理解されます。 8 Prevention 予防 予防は公衆衛生活動の中心といえる大切なことです。では予防しきれずに病気になり、あるいは病気を疑って検査を受けたり受診したりする人々に対しては、もう予防の段階ではなく、治療に専念すれば良いのでしょうか。特に臨床医や看護職の場合は、患者さんのケアと疾病の治療に注意が集中しがちです。しかし患者さんは治療だけを望んでいる わけではありません。病気になり、治療の段階になる前に、できれば病気を発見してほしいと思っています。病気になってしまったとしても、それ以上悪くならないように、病気の進行が止まること、病気から回復することを望んでいます。このような患者さんの立場を考えた場合、臨床医や臨床の看護職にとっても、また臨床疫学の項目としても、予防は大切なことです。 では臨床的な状況も視野にいれ、改めて予防を定義したらどうなるでしょうか。皆さんはすでに保健統計学、疾病対策と評価の項で、三段階でとらえた予防の考え方を学んでいます。 ・1次予防: 疾病の発生を防ぐ。喫煙、食生活、運動などの生活習慣の改善を中心とし罹患率の低下を目指す。 ・2次予防: 疾病の進展を防ぐ。早期発見・早期治療を基本とし、死亡率の低下を目指す。 ・3次予防: 疾病が進行した患者に対して、疾病の悪化や再発を防ぎ、リハビリテーションにより社会復帰を促進する。 以上3段階の予防を考えたとき、どの段階でも対象者の健康や疾病の状態の正確な把握が大切で、検査値を用いて問題のある人とない人を分けていく考え方は、すでに学んでいます。 どの段階かを見極めた上で、現状に働きかける上では治療Treatmentの考え方が、また先を考える上では予後や予測の考え方が大切です。 9 Chance 偶然 医療者は、現実の臨床や研究の場面で出会う出来事を観察し、経験的に学ぶことが大切です。しかし観察したことが全て確実とはいえず、経験的に学ぼうとする努力が報いられるとは限りません。観察結果を不確実にする2種類の誤差として ・「一定の方向性を有する偏り:バイアス、系統誤差、systematic error」と ・「方向性の無い偏り:チャンス、偶然誤差, random error」があります。 系統的な偏り・誤差であるバイアス(systematic error) を減らすにはどうしたら良いでしょうか。自ら疫学研究をデザインする場合には、介入研究の項で学んだ無作為割り付け、一重盲検法、二重盲検法などの方法を用いることで、バイアスを避けることは可能です。 では方向性の無い偏り、偶然誤差を減らすにはどうしたら良いでしょうか。偶然誤差、random errorはすべての観察に存在します。偶然誤差を最小限にすることは可能ですが、それを完全に避けることはできません。 10 Studying cases 症例から学ぶ 臨床疫学の基本は一人ひとりの患者さん、個々の症例から学ぶことです。本当に稀な疾病の場合は1例だけのこともあるでしょう。疾病によっては数例、またさらに多数例の症例が得られるかもしれません。症例数が増えると、学べる内容はどう変化するでしょうか。 1)症例報告 症例報告は1から10例くらいまでの少数の症例を用いて、ある疾病(稀な疾病の場合が多い)について、その疾病の様子を報告するものです。 目前の一症例は、疾病について学び考える上で大切な出発点です。これまで多くの新しい疾病が発見されてきましたが、そのきっかけは一例または数例の症例でした。たった1つの症例であっても、その人が病気の発作を起こすときに「その発作の直前に必ず何らかの同一の状況が存在する」などの事実が積み重なると、そこから発作の原因について仮説を立てることができ、またその仮説に従ってその人に発作が起きることを予測したり予防することも可能です。 もちろん少数例から言えることには限界があります。保健統計学では、このような少数例の患者さんの情報から統計的な計算を行うことはまずありませんでした。目前のたった1人の患者さんの事例から、疫学的な仮説を証明する事もありません。その1症例に起きている出来事が、同様の病状を持つ他の患者さんにも当てはまるのか、1症例だけだと分からないからです。 2)ケースシリーズCase series シリーズ(series)の意味は「連なること」、ケースシリーズは「いくつもの症例(ケース)が連なる状態」、患者調査を表します。 症例報告の場合の10名程度よりも、より多くの同様の症状を示す患者さんを見出し、症例数を20例、50例、100例と増やせるなら、量的調査が可能になります。患者調査として、疾病について量的データを集められると、その患者さんの集団としての特徴を、保健統計学を適用して示すこともできます。こうした患者調査はある1時点で行われ、疫学で学んだ横断調査に相当します。 3)症例対照研究 さて、患者調査は症例報告よりも疾病の集団的な特徴を明らかにすることができます。しかし幾ら症例数を増やしても、患者調査だけでは、因果関係の仮説を証明することは出来ません。対照群が設定されていないからです。患者群だけでなく対照群を設定する近代的な症例対照研究の出発点は1926年にJanet Lane-Clayponが行った乳がんの研究と言われています。 11 Cause 原因 私たちが行う日常的な医療や看護に関連した行為は、その前提として原因と結果の考え方「因果関係」を用いています。 例えば患者さんの体温を測るのはなぜでしょうか。体温が上昇することから、原因として感染症を始め多くの疾患の存在を推定することができるからです。 血圧を測るのはなぜでしょうか。高血圧が患者さんの健康に大きく関連し、高血圧を発見し治療することで、心疾患や脳血管疾患の危険を下げることができます。 手を洗うのはなぜでしょうか。特に外科では手術場に入る前に念入りに手を洗います。これは医療者の手に病原性微生物が付着している危険性を下げるためです。 このような原因と結果の関係は、昔から知られていたわけではありません。感染症の病原体を特定する因果関係の指針として「コッホの原則」が確立されたのは19世紀末、また生活習慣病も視野にいれた因果関係の指針「Bradford Hillの9条件」が出来たのは20世紀後半です。 日々の医療や看護の現場に存在する「原因と結果に関連した知見」がBradford Hillの9条件のどれに対応するか、またその知見(仮説)を立証または反証するための疫学研究のデザインは何かを、まとめて表したのがこの図です。 さて前回と今回の二回で、臨床疫学の考え方を整理しました。次回の授業からはエビデンスについて、お話します。 参考文献: Fletcher, Robert H. Clinical epidemiology: the essentials / Robert H. Fletcher, Suzanne W. Fletcher, Edward H. Wagner. -- 3rd ed. 1996 Williams & Wilkins. |
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出版年月日 | ||||||
日付 | 2017-04-20 | |||||
日付タイプ | Issued | |||||
権利 | ||||||
権利情報 | ©2017 守山正樹 | |||||
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著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
見出し | ||||||
大見出し | 臨床疫学と看護 ; 2 | |||||
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