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疫学の三要素と原因究明の考え方
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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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動画 (150.9 MB)
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テキスト (315.4 kB)
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Item type | 教材 / learning material(1) | |||||
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公開日 | 2019-09-01 | |||||
タイトル | ||||||
タイトル | 疫学の三要素と原因究明の考え方 | |||||
タイトルのヨミ | ||||||
その他のタイトル | エキガク ノ サンヨウソ ト ゲンイン キュウメイ ノ カンガエカタ | |||||
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主題 | Nightingale | |||||
資源タイプ | ||||||
資源タイプ | learning object | |||||
作成者 |
守山, 正樹
× 守山, 正樹 |
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内容記述 | ||||||
内容記述タイプ | Other | |||||
内容記述 | 前回の授業で疫学の三要素「①時間, ②場所, ③人」が出てきました。今回は疫学の考え方が確立されつつあった時代に活躍した人々の仕事をもとに、疫学の三要素についてさらに述べます。 1 時間/場所/人からの推論 1) ジョン・スノーの場合の時間/場所/人 ジョン ・スノー(1813-1858) は疫学者であるとともに優れた外科医師でもあり、麻酔薬としてエーテルやクロロホルムの投与量や投与方法を研究し、ビクトリア女王の出産時には麻酔医として立会い、世界で最初の無痛分娩に成功しました。さて、当時のロンドンではよくコレラが流行しましたが、詳しい調査はなされておらず、ミアズマがコレラの原因であるという説もまだ有力でした。 コレラと時間 まず大切なのは時間経過の把握です。スノーがコレラの予防に取り組み始めていた時代に戻り、当時の流行の経過をグラフに描きます。図は1854年のロンドンでのコレラの流行曲線、罹患者数の推移を示します。罹患者数の突然の増加は、その時点で一度に多数の人が共通の要因(原因)に暴露したことを示唆します。 コレラと場所 場所がロンドンというだけでは具体性がありません。疾病の発生を地図上に示すと多くの手がかりが得られます。スノーは1854年8月から9月のコレラ患者の発生(特に死亡者)を地図に書き込みました。その結果ブロード街のポンプの周りに患者がかたまる(集積する)傾向が現れました。 コレラと人 病気はどんな人に多いか、生活は?、男か女か、幼児から高齢者か、お金持ちか貧乏かなど、人について具体的にわかると病気の原因の仮説を立てられます。スノーの調査より、コレラ患者の多くはブロード街や近くの人々でしたが、中にはやや離れた地区に住む人々も含まれていました。コレラにかかった子供たちの場合、別な地区に住んでいても、学校はブロード街の近くにあり、学校に来て水を飲むときは、同じブロード街のポンプの水を飲んでいました。こうしてスノーは「ブロード街のポンプの水に原因がある」との仮説を立て、その後の調査を進めました。 2) 高木兼寛の場合の時間/場所/人 高木兼寛(1849-1920) は脚気の研究で世界的に有名な日本人の医師です。脚気は心不全や末梢神経障害を起こす疾患です。心不全で下肢の浮腫が、神経障害で下肢のしびれが起きることより、脚気と呼ばれます。 脚気と時間 脚気は現在ではほとんど出会わない疾患です。歴史をさかのぼると、例えば江戸時代、特に元禄年間に、裕福な生活をしている人々の間にこの病気が知られるようになりました。その後、明治の初期には脚気は多くの人々の命を奪っていました。特に陸軍や海軍で長期間、食事を共にする兵士の中に多く発生し、軍人における脚気の罹患率の高さは軍事力を脅かすと考えられました。 現在は稀なのに昔この病気が多かったのは何故でしょうか。 脚気と場所 脚気が発生した場所として有名なのは遠洋航海に出た海軍の軍艦の中です。航海期間が長くなると脚気が発生しやすく、1883年、10ヵ月の遠洋航海に出た軍艦Aでは、乗組員の脚気の発症率が45%、うち14%が死亡したとの記録があります。 脚気と人 江戸時代に脚気にかかった人々の生活を見ていくと、精米技術の発達が浮かび上がってきます。玄米ではなく、お金をかけて精米した白いご飯を食べている人々が脚気を発症しやすかったと考えられます。明治時代にも同様の状況が認められます。陸軍や海軍の兵士は、一般の庶民よりもお金をかけた食事が用意される場合が多く、軍艦Aでも精米された白米が食されていました。 3) ナイチンゲールの場合の時間/場所/人 フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910) はイギリスの看護師、統計学者であり、疫学の分野でも活躍しました。 時間とナイチンゲール ナイチンゲールの仕事で印象的なのは、1854年のクリミア戦争勃発後の時間です。当時は戦争の前線にいる負傷兵の状況が悲惨であり、病院では短時間に多くの患者が死亡していました。この事実に接したナイチンゲールは看護婦として従軍し、状況を改善することを試みました。 場所とナイチンゲール ナイチンゲールの場合の場として大切なのは、前線の病院(スクタリ病院)です。病院は本来、病気の治療をする場所ですが、その病院に赴任してナイチンゲールがすぐに気づいたのは、病院の劣悪な衛生状態でした。傷病兵たちの創傷治療が十分に行われず、医療スタッフは過剰労働状態であり、薬品は不足していました。 人とナイチンゲール ナイチンゲールの観察によると、不衛生な状態で十分な治療が受けられずに傷病兵が死亡する一方で、不衛生さを解消できない縦割り的な病院の管理も問題でした。そこでナイチンゲールが取り組んだのは、人々を動かし、病院の環境を改善する事です。 病院の不衛生な状態に改革が必要だとするナイチンゲールの報告は、すぐに母国に伝えられ、当時のイギリスの新陸軍省は現地に調査団を派遣し、病院内を衛生的に保つよう命令を下しました。この時ナイチンゲールが最初に導入した改革の1つが医療従事者の手洗いでした。 さて以上、スノーのコレラ、高木の脚気、ナイチンゲールの病院環境について、時間、場所、人を見てきました。時間、場所、人を観察することで、病気の原因について、因果関係を考え、仮説を立て、対策を講じることができます。 2 因果関係の仮説と証明 スノーの場合は「何かによって汚染された水道水」、高木の場合は「米を中心とする日本食」、ナイチンゲールの場合は「不衛生な病院環境」が原因と考えられました。これらの仮説を証明するために、彼らはどうしたのか、次に説明します。 1) スノーと仮説検証 スノーの場合は、汚染された水道水を飲んだ人と、汚染されていないきれいな水道水を飲んだ人の2群を比較し、両群の間でコレラの死亡率を比べました。このような比較は、普通は考えることができても、実行は難しいのですが、スノーの場合は偶然が、自然が味方しました。当時ロンドンには、2つの水道会社があり、同じ地区に2つの水道会社が入り乱れて水を供給していました。2つの会社はいずれもテムズ川から原水を採取していましたが、そのうちLW社は比較的上流のきれいな水を供給していたのに対して、もう一方のSV社は下流の下水の混じった水を供給していました。こうして、2つの会社それぞれの水を飲んだ人々の間で、どのくらいコレラが発生するかを比べる研究が可能になりました。これを自然の実験といいます。 2) 高木と仮説検証 高木の場合は、白米を中心とした食事をしている人々と、そうでは無い食事をしている人々を比較しようとしました。 この比較も、実際に行うのは簡単ではありません。しかし高木の場合は東京海軍病院長、海軍医務局長など海軍医療の中枢にいたこともあって、食事の内容を洋食に変えた別な軍艦Bに同じ航路を航海させ、白米の日本食中心の軍艦Aと比較するという画期的な研究を行うことができました。 3) ナイチンゲールの改革/介入 ナイチンゲールの場合は、1つの病院で衛生状態の改革を行い、改革の前後で、死亡率を比較することができました。その結果、改革を始めたばかりの2月に42%と高い値だった死亡率は、4月24.5%、5月には5パーセントになりました。 3 疫学の研究方法に親しむ 以上3人の人々の歴史的な試みを、現代の疫学研究方法の視点で整理します。 スノーの場合は、自然に生じた2つの状態「汚染された水道水に暴露された人々(SV社の水を飲んでいた人々):要因群」、「汚染された水道水に暴露されなかった人々(LW社の水を飲んでいた人々):対照群」を活用して、要因群と対照群を比較する研究を行ったことになります。この研究方法は、現在では要因対照研究、あるいはコホート研究に含まれます。 高木の場合は、食事への介入を目指して、人為的・実験的に2つの群(白米中心の日本食を食べる軍艦Aの乗組員、西洋食を食べる軍艦Bの乗組員)を設定し、両群の比較を行いました。現在の疫学研究方法の分類によれば、介入しない状態(それまで通りの兵食=白米を食べる群、対照群)に対して、介入した状態(新たに工夫した西洋食を食べる群、介入群)を比較するやり方は、介入研究に当たります。 ナイチンゲールの場合は、病院の衛生状態に介入しました。同じ病院で入院患者を対象に観察を続けており、時間的に前後関係にある2つの状態(介入前の状態、介入後の状態)の比較を行ったことになります。 こうしてスノーの場合は下水で汚染された水道水が、また高木の場合は白米中心の日本食が原因だと、わかりました。またナイチンゲールの場合は、不衛生な病院環境が高死亡率の原因だとわかりました。しかし、さらに詳しい、物質レベルでの原因究明はその後の時代に持ち込されました。 4 病原体や原因物質の発見 スノーによる「水道水の汚染」の元にあったコレラ菌について、ロベルト・コッホがインドでコレラ菌を発見したのは1884年です。 また高木による「白米中心の日本食」の元にあったビタミン欠乏に関連して、鈴木梅太郎が米糠からビタミンB1を抽出したのは1910年です。こうして、脚気の病因がやっと具体的に解明されました。脚気はビタミン欠乏症の1つ、ビタミンB1(チアミン)の欠乏で起こります。お米の場合は、玄米の胚芽の部分にB1が多く含まれていますが、精米によって失われます。 (守山正樹) |
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出版年月日 | ||||||
日付 | 2018-03-07 | |||||
日付タイプ | Issued | |||||
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著者版フラグ | ||||||
出版タイプ | AM | |||||
見出し | ||||||
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